「設備投資に使えるオススメの補助金はありますか?」
 経営者の方からよくご相談のあるご質問ですね。この回答として、中小企業庁の「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」が挙げられます。
 どちらも知名度の高い補助金ですので、一度は耳にしたことはあるのではないでしょうか?
 この2つの補助金はとても役立つ制度です。ただし、それぞれに特徴があり、自社の状況や取り組みによって使い分けることが大切です。そこで、今回は「事業再構築補助金」と「ものづくり補助金」の使い分け・選び方について解説していきます。

事業目的の違い

まずは補助金制度の目的、つまり国の政策の意図について比較していきましょう。

①事業再構築補助金
 令和3年から補正予算によって開始された制度です。予算規模は1.1兆円と、「ものづくり補助金」と比べても圧倒的に大きな予算がついています。
 新型コロナウイルスの影響によって、既存事業の継続では先行きが危うい状況に陥った中小企業の“事業再構築”を支援するための制度として立ち上げられました。
 コロナ禍で苦境に陥った企業が行う「新分野展開」「業態転換」「事業転換」「業種転換」「組織再編」を建物の新築や改装、設備投資の補助などによって支援します。

②ものづくり補助金
 平成24年度補正予算から継続している制度です。国の通常予算ではなく、補正予算で編成されているため、いつも「今年で最後では?」と言われてきましたが、現在まで続いています。予算規模は700~1,000億円
 ものづくり補助金の目的は、「革新的な商品・サービスの開発」と「生産性の向上」です。そのため、中小企業が行う設備投資や研究開発に要する費用を補助しています。日本は主要先進7カ国の中でも、生産性は50年連続最下位に位置するなど、生産性の低さが際立っているため、このテコ入れを図ることが主な目的です。

 このように、両補助金の目的は異なります。ものづくり補助金は既存事業の生産性向上でも対象となりますが、事業再構築補助金では既存事業の生産性向上だけでは対象にならない点に注意が必要です。
 目的の違いは、補助金額の違いにも表れています。次に補助金額の違いについて見ていきましょう。

補助金額の違い

 「事業再構築補助金」と「ものづくり補助金」では、補助金額が大きく異なります。それぞれの金額を見ていきましょう。

①事業再構築補助金
 事業再構築補助金は、従来の補助金制度の中でもトップクラスの補助金額を誇ります。財務省からの指摘などにより、1次公募から縮小されつつはあるものの、それでも現在の上限は1.5億円という破格の補助金額となっています。
 補助金額は、対象類型によって様々なのですが、ここでは主要な類型についてご紹介します。(6次公募の内容です※以下同)

【通常枠】※最もスタンダードな類型
 ●従業員数20人以下:100万円 ~ 2,000万円
 ●従業員数21~50人:100万円 ~ 4,000万円
 ●従業員数51~100人:100万円 ~ 6,000万円
 ●従業員数101人以上:100万円 ~ 8,000万円

【回復・再生応援枠、最低賃金枠】※採択率が高い特別枠
 ●従業員数5人以下:100万円 ~ 500 万円
 ●従業員数6~20人:100万円 ~ 1,000 万円
 ●従業員数21人以上:100万円 ~ 1,500 万円

【グリーン成長枠】※補助金額が大きい特別枠
 ●中小企業等:100万円 ~ 1億円
 ●中堅企業等:100万円 ~ 1.5億円

 通常枠は、従業員規模によって最大2,000~8,000万円までの補助を受けられます。回復枠等は、補助金額がコンパクトな反面、採択率が高いので期待値は高いです。カーボンニュートラルに資する取り組みのグリーン枠では、2年間の研究開発や人材育成などハードルが高い一方で、補助金が最大1.5億円と最も大きくなっています。

②ものづくり補助金
 設備投資で1,000万円が補助される、という認識が広がったものづくり補助金。実は最近は従業員規模によって1,000万円を上回ることも下回ることもあるのです。主要な類型の補助金額は次のとおりです。

【通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠】
 ●従業員数5人以下:100万円 ~ 750万円
 ●従業員数6人~20人:100万円 ~ 1,000万円
 ●従業員数21人以上:100万円 ~ 1,250万円

【グリーン枠】
 ●従業員数5人以下:100万円 ~ 1,000 万円
 ●従業員数6~20人:100万円 ~ 1,500 万円
 ●従業員数21人以上:100万円 ~ 2,000 万円

 ものづくり補助金は、事業再構築よりも補助金額がコンパクトであることが分かりますね。ただし、事業再構築補助金の通常枠は採択率が30~40%割前後であることに対し、ものづくり補助金は50%前後とかなり高くなっています。補助金額×採択率で期待値を算出し、どちらが補助金額が多いかを算出してみるのも良いでしょう。

補助対象経費の違い

ものづくり補助金の補助対象経費には、次のものが挙げられます。

●機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサー ビス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費
 そして事業再構築補助金の補助対象経費では、上記のものづくり補助金の対象経費に加えて、【建物費】【広告宣伝・販売促進費】【研修費】が対象となります。
 これらの費用の内容を簡単にご説明します。

●建物費
 ①専ら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費
 ②補助事業実施のために必要となる建物の撤去に要する経費
 ③補助事業実施のために必要となる賃貸物件等の原状回復に要する経費
 ➃貸工場・貸店舗等に一時的に移転する際に要する経費(貸工場・貸店舗等の賃借料、貸工場・貸店舗等への移転費等)

●広告宣伝・販売促進費
 
本事業で開発又は提供する製品・サービスに係る広告(パンフレット、 動画、写真等)の作成及び媒体掲載、展示会出展(海外展示会を含 む)、セミナー開催、市場調査、営業代行利用、マーケティングツール 活用等に係る経費

●研修費
 
本事業の遂行のために必要な教育訓練や講座受講等に係る経費

 建物の建設や改装、広告宣伝、研修などは、新規事業の立ち上げに必要な経費です。特に建物に使える補助金はほとんど存在しないため、希少価値の高い制度です。ものづくり補助金の対象外の経費であるこれらを補助対象にできることは、事業再構築補助金の大きなメリットといえるでしょう。

申請要件の違い

 どちらも有用な制度である事業再構築補助金とものづくり補助金ですが、それぞれに「満たさなければ申請できない」条件があります。ここでは、主要な条件を簡単にまとめてご説明します。(詳細は公募要領をご確認ください)

●事業再構築補助金
 ①「事業再構築」の定義に該当する事業

 ⇒従来事業とは多少分野の違う商品やサービスの展開を開始し、3~5年度にその事業の  売上が会社全体の売上の10%以上を占める
 ②コロナ拡大後(2020 年 4 月以降)の売上が10%以上減少している
 ⇒2020 年 4 月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019 年又は 2020 年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して 10%以上減少している
 ③事業計画を認定経営革新等支援機関と策定する
 ⇒国が認定した中小企業支援機関と事業計画を策定する

 さて上記の3つですが、①は企業の規模が大きくなければ難しくないでしょう。未達時のペナルティもありません。②は対象期間が任意ですので多くの企業は該当する期間があるでしょうし、③金融機関や商工会議所・商工会等に依頼すればクリアできます。ただ、コロナ後に絶好調の企業は②がネックとなる可能性があるため、注意が必要です。

●ものづくり補助金
 ①事業計画期間に給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
 ②事業計画期間に事業場内最低賃金(補助事業を実施する事業場内で最も低い賃金)を  地 域別最低賃金+30円以上の水準にする
 ③事業計画期間に事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加

 ①は事業計画終了年度に未達であれば、補助金の一部を返還することになるため、雇用が順調に伸びている企業でない場合は注意が必要です。
 ②は事業計画期間内(3~5年)の間は必須の目標で、未達が1年度でもある場合、補助金額×未達の年度数÷計画年度の計算で補助金の返還が発生します。
 ③はペナルティはありませんが、賃上が未達でも付加価値の伸び率が低ければ補助金返還を免除される場合があります。

 このように、2つの補助金の要件は大きく異なります。事業再構築補助金にはペナルティはありませんが、ものづくり補助金の方は、賃上げという縛りがあり、なおかつ未達時のペナルティが存在する点がネックですね。

上手な使い方・使い分けのポイント

 事業再構築補助金・ものづくり補助金の両方に申請できそうな場合に、どちらを選択するか?というのがポイントになってきます。

ポイント① 建物費・広告宣伝費・研修費を補助対象にしたい
 ものづくり補助金はこれらに対応していないため、必然的に事業再構築補助金を選択することになります。

ポイント② 賃上げが難しい
 業界の構造的に賃金の水準が低い業界や、パート・アルバイトの方が多い業界では、地域別最低賃金+30円以上への変更が、補助金額以上の負担になる場合が多いです。この場合は、事業再構築補助金の要件を満たせるか否かを確認しましょう。

ポイント③ 設備投資はするが既存事業の強化である
 事業再構築補助金は、新規事業に取り組むことが必須ですので、製造する商品や提供するサービスに変化がないプロセス改善の場合は要件を満たせません。そのため、ものづくり補助金を選択することになります。ただし、従来よりにない精度・サイズ・機能の製品製造に挑戦する場合などは、事業再構築補助金の新分野展開にも該当するケースがあります。

ポイント④ 補助対象が設備投資のみで両補助金の要件を満たす
 事業計画の内容によっては、どちらも選べるケースもあります。この場合、どちらの補助金を選べば良いでしょうか?大きな補助金額が必要なら事業再構築補助金の方が良いですが、750万円以内ならどちらの補助金でもカバーできます。この場合は採択率や賃上要件を加味し、次の優先順位で選択すると良いでしょう。
 ①事業再構築補助金の特別枠(補助率と採択率が高い)>②ものづくり補助金(採択率が高い)>③事業再構築補助金の通常枠

まとめ

 いかがでしたか?事業再構築補助金とものづくり補助金は、似たような使い方ができる一方、細かい要件や補助金額、補助率や採択率など多くの違いがあります。
 深く考えずに一方の補助金を選んだが、もう一方の方が補助金額を多くできた。といった企業も後を絶ちません。これを回避する一番の対策は、補助金に詳しいコンサルタントの支援を受けることです。

当社にご相談いただければ、実績豊富な中小企業診断士などのコンサルタント事業計画の策定・実施支援を力強くサポートします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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ものづくり補助金は、中小企業・個人事業等の設備投資による生産性向上革新的なサービス開発について、最大3,000万円の補助を受けられる制度です。2012年から国の補正予算によって運用され、人気の補助金となっています。
 業種や用途も様々で、代表的な活用方法としては、製造業による加工機械・検査機器の導入や、建設業による重機や計測器ドローンの導入、農業によるトラクターや精米機・選別機の導入などが挙げられます。
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