中小企業が自社の成長をさらに加速させるための取り組みとして、**「100億宣言」**が始動しました。経営者自らが「売上高100億円」という大胆な目標を掲げ、具体的な実現策を明示することで、企業のコミットメントと実現可能性をアピールします。本記事では、100億宣言の概要、記載すべき内容のポイント、提出の流れ、そして宣言することによるメリットについてご紹介します。


100億宣言とは?

100億宣言は、中小企業の経営者が自社の飛躍的成長を実現するために、以下の事項を宣言する仕組みです。

  • 目標設定: 売上高100億円の実現を目標に、成長戦略を具体的に記述
  • 自己コミットメント: 企業概要や経営者のメッセージを通じ、実現に向けた強い意志を示す
  • 情報の見える化: 宣言内容は、事務局が運営するポータルサイトに掲載され、各企業の取組みが広く周知されます

※対象となるのは、売上高10億円~100億円未満の中小企業(中小企業基本法または法人税法に基づく中小企業・中小法人)です。


100億円宣言の空パック・ひな形

記載例

3つの特徴整理

株式会社 百億電機(製造業・家電)

  • 基本戦略: 既存のOEM製造事業の安定成長を維持しながら、自社ブランドのスマート家電という新たな成長軸を拡大
  • 具体的施策:
    • 既存事業の強化: 大手メーカー向けOEM製造で堅実な売上成長
    • 新事業の推進: UX・サービスデザインの導入、スマートホーム関連の内製化、デザイン性の高い自社企画製品の開発
    • 海外展開・組織強化: 深圳でのR&D・製造体制の整備、海外展示会出展、専任部署(UX・ソフトウェア部門)の新設など

*つまり、既存事業の拡大と新規事業の両輪で100億円を目指しています。


株式会社 百億水産(卸業、小売業、飲食)

  • 基本戦略: 現在の事業モデル(卸売・店舗販売・飲食)の成功事例をさらに拡大し、全国および海外展開で店舗数を増加
  • 具体的施策:
    • 既存事業のスケールアップ: 好調な1・2号店の実績をもとに、店舗数を70店舗まで拡大
    • 運営体制の標準化: 出店エリアの科学的選定、店舗運営マニュアル・研修プログラムの整備、店長候補の採用と育成
    • 新たな形態の展開: 小規模スペースでの出店や、デベロッパー・不動産会社との提携による商業施設出店も検討

*基本的には、既存事業をそのまま大きくする(店舗拡大・運営効率の向上)アプローチとなっています。


株式会社 百億テクノロジー(情報サービス業)

  • 基本戦略: 既存のD2Cブランド構築支援コンサルティングを、よりスケーラブルなSaaS型モデルへ転換
  • 具体的施策:
    • ビジネスモデルの転換: 従来の人的リソースに依存するコンサルティングから、ソフトウェアとして提供できるSaaSプロダクト化を推進
    • 技術強化と組織体制: デザイン・フロントエンド中心のチームに加え、バックエンド技術やCTOクラスの人材を新規採用し、品質と開発体制を強化
    • 市場拡大: AIエージェントの高機能化や大手ECサイト構築サービスとの提携による市場の拡大を図る

*こちらは、既存のコンサルティングノウハウを元に新たなSaaS事業として、既存事業の変革を通じた成長を目指しています。

3つの事例をアンゾフの成長マトリックスで言うとどんな展開?

1. 株式会社 百億電機(製造業・家電)

  • 市場浸透(既存市場・既存製品)
    ・大手家電メーカー向けOEM製造事業で、既存市場におけるシェア拡大や売上の堅実な成長を図る
  • 製品開発(既存市場・新製品)
    ・自社ブランドとしてのスマート家電や、UX・サービスデザインを取り入れた新製品の開発
    ・工場環境や生産ラインの設備投資による付加価値の向上
  • 市場開拓(新市場・既存製品)
    ・既存の製品(OEMや自社製品)を、韓国・台湾や東南アジアなど新たな海外市場へ展開
  • 多角化(新市場・新製品)
    ・今回の戦略では該当せず、主に既存事業の強化と新製品開発、そして海外市場への拡大に注力

2. 株式会社 百億水産(卸業、小売業、飲食)

  • 市場浸透(既存市場・既存製品)
    ・既存の卸売・店舗販売・飲食事業において、現状の成功を基に店舗数を増やし市場シェアを拡大
  • 製品開発(既存市場・新製品)
    ・既存事業のバリエーションとして、小規模店舗(例:海鮮丼専門店など)のフォーマット開発
    ・既存のメニューやサービスの改善・刷新
  • 市場開拓(新市場・既存製品)
    ・全国展開はもちろん、デベロッパーとの提携や東南アジアなど海外市場への進出を推進
  • 多角化(新市場・新製品)
    ・こちらも基本的には既存事業のスケールアップ・エリア拡大が中心で、新規事業領域への大きなシフトは見受けられない

3. 株式会社 百億テクノロジー(情報サービス業)

  • 市場浸透(既存市場・既存製品)
    ・現状のD2Cブランド支援コンサルティング事業をさらに強化し、既存顧客への深耕を図る
  • 製品開発(既存市場・新製品)
    ・従来の人的サービスを、SaaSプロダクトとして提供する形に転換
    ・AIエージェントの高機能化やECサイト構築ソリューションの開発など、新たなソフトウェア製品の創出
  • 市場開拓(新市場・既存製品)
    ・新たなSaaSプロダクトを2万社に提供するなど、既存サービスの市場を広げるため大手ECサイト構築サービスとの提携を推進
  • 多角化(新市場・新製品)
    ・基本は既存のコンサルティング領域を軸に、サービス形態の転換を図っているため、多角化戦略としての新規事業領域への進出は現在は検討対象外

まとめ

  • 百億電機: 既存のOEM事業で市場浸透を図りつつ、新たなスマート家電(製品開発)を投入し、海外市場(市場開拓)にも積極的に進出するハイブリッドな戦略を採用しています。
  • 百億水産: 現行の卸売・飲食・小売事業の強化(市場浸透)と、店舗フォーマットの新規開発(製品開発)により、全国および海外市場(市場開拓)での拡大を目指します。
  • 百億テクノロジー: 既存のコンサルティング事業をSaaS型に転換(製品開発)することで、より広範な市場(市場開拓)にサービスを提供し、事業拡大を図ります。

各社とも、主に既存市場での拡大(市場浸透・市場開拓)と、新たな製品やサービスの開発(製品開発)に注力しており、いずれも多角化戦略(全く新しい市場・製品への進出)は現時点では採用していないと言えます。

宣言の記載内容とポイント

(1) 企業概要

  • 基本情報: 本社所在地、事業内容、従業員数(正社員とパート・アルバイトを分けて記載)
  • 売上高・従業員数の時点明記: 数値の末尾に「(〇〇時点)」と記載
  • その他: 法人番号、WebサイトのURLなど、必要な情報を枠内に収める

※グループ会社や子会社がある場合は、売上高100億円を目指す主体のみ記載してください。

(2) 企業理念・100億宣言に向けた経営者メッセージ

  • 企業の方向性: 企業理念やミッションを明確に記載
  • 成長ビジョン: 売上高100億円への取り組みを通じて実現したい将来像
  • 注意点: 他社批判や過度な宣伝、法令違反に該当する内容は避け、全て公表前提で記載

(3) 売上高100億円実現の目標と課題

  • 定量・定性の目標設定: 具体的な達成年度、成長率などの数値目標を設定
  • グラフの活用: 達成目標が視覚的に分かるように、グラフ等で説明することが推奨されます
  • 具体的な課題: 成長実現に向けた課題や解決策を詳細に記載

※記載内容は、「売上高100億円実現に向けた具体的措置」と整合性を保つようにしてください。

(4) 売上高100億円実現に向けた具体的措置

  • 成長戦略: 生産体制の増強、海外展開、M&Aなど、具体的な成長手段を記述
  • 実施体制: 社内外の協力体制や、今後の体制整備の方針についても明記

提出の流れと注意事項

  • 提出方法: PDF形式で作成し、指定のURL(※調整中)より提出してください。
  • 受付開始: 申請受付は2025年5月から開始予定です。
  • 公表の可能性: 登録された宣言は、100億企業実行事務局により確認後、ポータルサイトに掲載されます。掲載基準に抵触する場合、掲載が取りやめとなることがあります。

宣言することのメリット

宣言企業として登録すると、以下のメリットが期待できます。

  • ロゴマークの使用権: 名刺や企業資料にロゴマークを記載することで、取組みのPRが可能
  • 支援制度の基本要件: 中小企業成長加速化補助金や経営者ネットワークなど、一部の支援制度の活用において、基本要件となる場合があります
  • 広報効果: 宣言内容がポータルサイトで公開されるため、地域や業界内での認知度向上につながります

詳細はこちらをご覧ください。


まとめ

100億宣言は、中小企業が自社の将来像を明確に描き、具体的な成長戦略を実行に移すための有効なツールです。経営者自らがコミットメントを示すことで、企業の内外に強い信頼感を醸成し、各種補助金や支援制度の活用にも繋がる可能性があります。企業の今後の発展を見据え、ぜひ積極的な取り組みをご検討ください。