自由民主党 政務調査会、中小企業・小規模事業者政策調査会

ポストコロナへの対策と、人口減少社会において中小企業・小規模事業者が自己変革することを促進し、日本らしい価値創造と地域経済の好循環を生み出すことで、新しい成長の実現を目指すための中小企業・小規模事業者の方向性について提言が出されました。

1.ポストコロナにおける当面の政策

(1)物価高・賃上げ対策の更なる強化

コロナによる部素材の供給不足やロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、世界的なインフレが起こっており、これを契機に賃上げも行い、30年間も続いたデフレ脱却が求められる。
そのために、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を行うことを基本原則とすべきで、特に中小企業において価格転嫁対策を徹底して行う必要がある。
また、賃上げを行う企業に引き続き補助金で支援を行う。

(2)資金繰りの支援

引き続き中小企業や中堅企業の資金繰り支援を行い、収益力改善や事業再生、再チャレンジの支援を強化していく。

(3)グリーン、デジタルや人手不足に対応した事業再構築・生産性向上の支援

グリーン、デジタル等の新たな事業への展開、中堅企業への成長や大幅な賃上げに繋がる事業再構築、既存事業の廃棄も含む産業構造転換などの成長支援を行うべきである。また、業務の自動化やIT化を図り、人手不足に対応していく必要がある。

2.地域経済の好循環を生み出す政策フレーム

地域経済の好循環を生み出し、各地域の個性を活かした日本独自の価値創造のあり方と地域社会のウェルビーイングの向上を目指していく必要がある。
以下3つの柱について説明する。

①第1の柱:「100億企業」の創出(スケールアップ企業支援の強化)

「100億円企業」を目指す意欲と潜在能力を持つ経営者に対して、M&A等の経営戦略支援や、輸出・海外展開、イノベーション、人材・資金面の支援を強化すべきである。各地域に「100億円企業」が誕生し、地域全体に波及効果を及ぼし、地域内の中小企業・小規模事業者の持続的な発展につなげていくことができる。

➁第2の柱:「社会課題解決(ゼブラ)企業」の創出と「インパクト投資」の拡大(新たなパワーアップ企業支援)

地域経済の好循環を生み出すため、「社会課題解決(ゼブラ)企業」を創出し、インパクト投資も積極的に拡大していく必要がある。

③第3の柱:中小企業・小規模事業者に「自己変革」を促進し、「地域経済の好循環の拡大」を支える体制の構築

中小企業・小規模事業者が自己変革にチャレンジし、競合他社と異なる差別化された経営戦略を構想・実行することで、付加価値に見合った価値付(価格決定・価格転嫁)をする経営へ転換し、売上の拡大や収益性の向上に取り組むことが大切である。多くの中小企業・小規模事業者が成長志向企業へ変革していくと、地域経済の好循環の効果を地域全体に拡大していくことができる。

3.100億企業創出プロジェクト

(1)100億企業の意義と支援策の重点投入

「100億企業」は、人口減少社会において地域経済の新たな需要、人材、資金の流れを生み出し、地域経済の好循環を先導する存在。
「100億円企業」を目指す意欲と潜在的可能性のある経営者に様々な支援を行っていくべきである。

(2)戦略的なM&A・グループ化の促進

100億円企業を含む成長企業の中に、複数の地域企業を「戦略的M&A」や「グループ化」によって統合・集約しながら更なる成長を遂げている「地域コングロマリット」と呼ぶべき事例が複数挙げられている。M&Aを支援する経営資源集約化税制等の活用を更に進め、資金調達の支援も行うべきである。

(3)グローバル化・新規輸出の支援、インバウンド需要の取込

円安の今、日本独自の付加価値の高い商品やサービスを海外に展開していく必要がある。また、アフターコロナにおけるインバウンド需要も積極的に取り込んでいくべきである。

(4)イノベーションを生み出す「場」を中心とした支援体制の構築

中小企業のイノベーションは、地域経済における技術・人材・資金の好循環の起点・起爆剤となり、とても重要なものである。国内外の事例から学び、横展開や萌芽の育成・強化を促進すべきである。また、日本独自の地域イノベーションのエコシステムを育てていくことも必要である。

(5)人材・資金等の内部資源の充実、域外からの呼び込み

地域の中小企業の経営人材等のニーズを発掘・明確化し、副業・兼業人材を含めたマッチングを通じて、中小企業等の課題解決を促すことが重要である。
地域内だけではなく、地域外からの資金も呼び込んでいく必要がある。

4.社会課題解決企業の創出とインパクト投資の拡大に向けたエコシステム

(1)社会課題解決企業の意義

今後は、地方自治体だけではなく、民間事業者(中小企業や小規模事業者、起業家等)も、人口減少や少子高齢化といった社会課題解決に参入していく必要がある。

(2)社会課題解決企業を支援する中間支援団体の役割

社会課題解決企業が地域で事業を進めるために、自治体、地域金融機関、投資家、大企業等の様々な関係者とお互いの強みを生かしながら有機的な連携を図り、事業を進める権限や資金・人材などの経営資源を獲得していく必要がある。こうした連携をサポートする中間支援団体が必要になってくる。

(3)社会課題解決企業の創出のために必要な要素

地域の社会課題の整理と、課題解決に至る道筋(ソーシャルインパクトの実現)をロジックモデルなどによって構造的に示すという手法が効果的である。
具体的な課題は以下の通り。

①ソーシャルインパクト実現のために各プレーヤーが果たす役割の明確化
社会課題解決企業解決の構造や仕組みについてのスキルやノウハウを持つ中間支援団体が中心となって、支援のエコシステムを構築していくべきである。
社会課題解決企業、自治体、地域金融機関、投資家、大企業、中間支援団体等の各プレーヤーが果たすべき役割を、対象となる地域、分野、規模等の違いも踏まえて整理・検討した上で、優良事例やその共通事項を抽出し各地域に横展開するための基本指針・行動指針の策定が必要。

➁社会課題解決企業の事業促進に必要な要素
社会課題解決企業の事業促進を円滑にするために、資金的支援(インパクト投融資の呼び込み)や人的支援を民間から集めやすくする工夫が必要。

・ソーシャルインパクトに基づく投融資のあり方
 自社株買戻しや利益余剰金からの配当・返済など特別な金融スキームが必要となる。
・大企業・スタートアップ人材の参画
 兼業や副業の推進、企業版ふるさと納税制度等の仕組みを活用し、事業の推進に有用な人材の活用を進めていく必要がある。
・社会課題解決企業の評価・認証の仕組み
 中間支援団体等の実態を踏まえた上で、具体的な仕組みを検討し、試行・効果検証を行っていくことが有用である。

(4)エコシステムの創出に向けた政策パッケージ

以下に挙げるエコシステムの創出のための政策パッケージを検討する必要がある。
・ソーシャルビジネス振興基本方針・行動指針の策定
・中間支援団体を中核としたインパクト投資も見据えたモデル事業実施
・認証制度の仕組みの検討
・事業拡大に向けた中小企業補助金の活用
・インパクト投資・融資の普及促進
・コーポレートガバナンス・コード活用のための取組
・企業版ふるさと納税制度や地域活性化起業人制度などの活用

5.中小企業に自己変革を促進し、地域経済の好循環の拡大を支える体制の構築

(1)DXの活用による生産性向上のための支援

中小企業の生産性を向上するために、業務プロセスのデジタル化、従業員のITスキル向上などが重要である。その次にデジタル技術を活用して新たな市場や需要を生み出すDXも目指していくことが求められる。

(2)中小企業データ基盤を活用した成長投資とのマッチング支援

中小企業からの情報をAPI連携により、一元的なデータ基盤「ミラサポ・コネクト」を稼働するべきである。その際、そのデータが成長志向の中小企業に対する投資・融資といった資金調達の円滑化に活用されるために、ユーザーインターフェースに十分配慮し、ミラサポ・コネクトと民間も含めた他のデータ基盤との連携も同時に進める必要がある。

(3)事業承継・引継ぎ等を通じた中小企業の経営人材の自己変革・育成

中小企業経営者が自ら経営戦略の構想・実行に取り組むための基盤・きっかけ作りとして、成長意欲を共有する中小企業経営者や後継者のネットワーキングの促進、事業再構築補助金の活用を通じた戦略構想・実行の重要性への気づきの促進を行う必要がある。
また、経営への意欲や能力の高い人材に対し、経営資源の移転を行い、前向きな事業変革に繋げるだけではなく、地域の新たな担い手を創出するために、中小企業の事業承継・引継ぎを後押しすべきである。

(4)地域全体で人材の採用・シェアを行う仕組み

中小企業が地域の自治体や教育機関と連携し、人材の確保・育成・定着や地域内での人材のシェアリングを行う、「地域の人事部」などの取組を支援し、自治体や地域の中小企業支援機関とも連携し、全国への横展開を図るべきである。

(5)伴走支援の体制強化

地域経済を牽引する企業の更なる成長を促進するために、企業の本質的課題に対する経営者の気づきを与え、自己変革・行動変容に繋げる課題設定型の伴走支援が不可欠であり、支援機関との連携や支援ノウハウの共有などを全国に普及し展開していくべきである。また、GX・DX、事業再構築などを通じた企業の成長や課題解決の支援、M&Aや海外進出による事業の拡大の支援を行うべきである。

(6)事業再構築・生産性向上の支援

引継ぎ事業再構築や生産性向上のための支援を実施し、その際、共通のデジタル基盤を活用した集団的な事業再構築の取組に関しても積極的に支援を行っていくべきである。