目次
- 1 この記事の前提
- 2 10億宣言とは
- 3 現時点で判明している制度内容
- 4 なぜ売上高10億円が政策目標になるのか
- 5 福田達夫氏が示す「10億円プロジェクト」の政策思想
- 6 10億円企業には「成長型」と「価値追求型」がある
- 7 PLからBS・キャッシュフロー経営への転換
- 8 10億宣言の対象企業
- 9 売上高10億円までに必要な成長率
- 10 金融機関はどのように関与するのか
- 11 10億宣言に記載すると推定される内容
- 12 宣言企業の選定ロジック
- 13 補助金上限1億円への引上げ
- 14 10億宣言と100億宣言の違い
- 15 中小企業の4類型と10億宣言
- 16 10億宣言を活用しやすい企業
- 17 利用が難しい可能性がある企業
- 18 企業が今から準備すべきこと
- 19 今後の要綱で確認すべき事項
- 20 よくある質問
- 21 まとめ
- 22 参考資料
中小企業庁は、2027年度から、売上高10億円を目指す中小企業を重点的に支援する新制度を開始する方針です。
制度の中心となるのが、経営者が売上高10億円や高収益化などの目標を掲げる「10億宣言」です。
2026年7月9日の日本経済新聞の報道によると、10億宣言を行う企業について、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の補助上限を、現在の9,000万円から1億円程度へ引き上げる方向で調整されています。
ただし、10億宣言は、単に「売上高10億円を目指す」と表明すれば補助金を受けられる制度ではありません。
中小企業庁の公表資料や、自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長を務める福田達夫衆議院議員の政策構想を踏まえると、10億宣言は、次の要素を組み合わせた企業育成制度になると考えられます。
- 経営者による成長目標の宣言
- 地方銀行・信用金庫等による伴走支援
- 企業の技術、商品、地域性などの事業価値の評価
- 売上、利益、投資、人材、組織、資金繰りを含む成長計画
- 補助金、政策金融、人材、販路、M&A等の集中支援
- 売上高だけでなく、付加価値、賃金、BS、キャッシュフローの改善
本記事では、現時点で公表されている内容と、既存制度から推定される制度設計を分けながら、10億宣言の対象企業、補助金、金融機関の役割、審査項目、必要書類、100億宣言との違いについて解説します。
この記事の前提
2026年7月時点では、10億宣言の正式な要綱、公募要領、申請様式はまだ公表されていません。
そのため、本記事では情報を次の4つに区分しています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 政府の公表資料 | 中小企業庁の審議会資料等に明記された内容 |
| 報道された方針 | 2027年度開始、補助上限1億円等 |
| 政治・政策上の構想 | 自民党の提言、福田達夫氏のnote等 |
| 本記事の推定 | 100億宣言や既存補助金から推定した申請要件・審査内容 |
正式な要件は、2026年冬頃に公表される見込みの要綱や、2027年度の公募要領を確認する必要があります。
10億宣言とは
10億宣言とは、現在の売上高が主に1億円以上10億円未満の中小企業が、売上高10億円、高収益化、経営の質の向上などを目標として掲げ、経営改革へ取り組むことを宣言する仕組みです。
中小企業庁の資料では、経営者が「10億企業や高収益化など成長経営を目指し、本気で取り組むことを宣言する仕組み」を新たに創設する方針が示されています。
宣言内容としては、次の事項が想定されています。
- 経営者のビジョン
- 事業価値の磨き上げ
- 成長を支える経営基盤の構築
- 地域経済への貢献
- 金融機関による伴走支援方針
つまり、10億宣言は売上目標だけを記載する制度ではありません。
どの市場で成長するのか、何を競争力の源泉とするのか、どのような設備・人材・組織が必要なのか、必要資金をどのように調達するのか、地域にどのような効果を生み出すのかまで含めて示す制度になると考えられます。
現時点で判明している制度内容
| 項目 | 現時点の内容 |
|---|---|
| 制度名 | 10億宣言と報道 |
| 主な対象 | 売上高1億円以上10億円未満の中小企業 |
| 目標 | 売上高10億円、高収益化、経営の質の向上 |
| 要綱公表 | 2026年冬頃の予定 |
| 受付開始 | 2027年度予定 |
| 金融機関 | 地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合等 |
| 対象補助金 | 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 |
| 補助上限 | 9,000万円から1億円程度へ引上げ予定 |
| 2026年度予算 | 1,200億円 |
| 2027年度概算要求 | 2,000億円程度を要求する方針 |
| 宣言後の支援 | 経営、金融、投資、人材、販路等 |
| 企業選定 | 選定プロセスを設ける方向 |
中小企業庁によると、売上高1億円以上10億円未満の企業は全国に約60万者あり、中小企業全体の2割弱を占めます。
なぜ売上高10億円が政策目標になるのか
100億宣言だけでは対象企業が限られる
政府は2025年度から、売上高100億円を目指す中小企業を対象とした「100億宣言」を開始しました。
100億宣言は、主に現在の売上高が10億円以上100億円未満で、将来的に100億円を目指す企業を対象とする制度です。
一方、日本の中小企業の多くは、まだ売上高10億円に到達していません。
売上高10億円以上100億円未満の企業が約9万者であるのに対し、売上高1億円以上10億円未満の企業は約60万者存在します。
将来的に100億円企業を増やすためには、その手前にある売上高数億円規模の企業を育成する仕組みが必要です。
売上高数億円の企業には「成長の壁」がある
売上高1億円を目指す段階では、経営計画の言語化、資金繰りの安定、顧客・商品・サービスの確立などが主要課題になります。
一方、売上高10億円を目指す段階では、次のような経営改革が必要になります。
- 勘と経験に依存した経営から戦略経営への転換
- 社長一人への依存から組織経営への転換
- 価格交渉力の強化
- 商品・サービスの差別化
- 自社ブランドの構築
- 営業、生産、管理部門の責任者の配置
- 月次決算、原価管理、部門別採算管理の導入
- IT、DX、AIの実装
- 追加設備資金・運転資金の確保
売上高10億円は、単なる数値目標ではなく、個人商店的な経営から組織的な企業経営へ移行する節目として位置付けられています。
福田達夫氏が示す「10億円プロジェクト」の政策思想
自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長の福田達夫衆議院議員は、10億円企業を単なる100億円企業の予備軍として捉えていません。
福田氏は、地域経済を森に例え、100億円企業、10億円企業、小規模事業者を次のように位置付けています。
| 企業層 | 地域経済における役割 |
|---|---|
| 100億円企業 | 地域外・海外から売上を獲得する「幹」 |
| 10億円企業 | 地域の産業・雇用・取引を支える「枝葉」と「根」 |
| 小規模事業者 | 地域の暮らしと生活インフラを守る「下生え」 |
100億円企業は、域外や海外から資金を獲得し、地域の雇用、賃金、取引へ波及させる役割を担います。
10億円企業は、将来的に100億円企業へ成長するだけでなく、地域に技術、雇用、取引、信用、サービスを残す役割を担います。
小規模事業者は、買い物、燃料、修理、飲食、福祉、見守り、建設、交通、物流など、地域の生活インフラを維持します。
したがって、今後の中小企業政策は、大きな企業だけを成長させる政策ではなく、地域経済の幹、枝葉、根、下生えを一体的に支援する政策として再設計される可能性があります。
10億円企業には「成長型」と「価値追求型」がある
福田氏の構想で重要なのは、10億円企業を一つの物差しで評価しないという点です。
成長型企業
成長型企業は、現在の事業を地域外、全国、海外へ拡大し、将来的に100億円企業へ成長する企業です。
- 新製品・新サービスの開発
- 生産能力の増強
- 全国展開
- 海外輸出
- M&A
- 多店舗展開
- 自社ブランドの確立
- 大手企業との取引開始
- EC・デジタル販路の拡大
成長型企業には、設備投資、販路開拓、輸出、M&A、成長資金などの支援が適しています。
価値追求型企業
価値追求型企業は、必ずしも規模だけを追わず、地域に深く根を張り、その地域でしか提供できない技術、味、サービス、信用、関係性を磨き続ける企業です。
- 地域固有の技術を持つ製造業
- 伝統食品や地域ブランド商品を製造する企業
- 地域交通・物流を担う企業
- 地域医療、介護、福祉を支える企業
- 建設、修理、設備保守を担う企業
- 高品質な旅館、飲食、観光事業者
- 特殊な職人技を持つ企業
- 地域内に代替事業者が存在しない企業
価値追求型企業には、次の支援が重要になります。
- 技術・技能の承継
- 品質向上
- 価格転嫁
- ブランド価値の向上
- 地域内取引の安定
- 人材育成
- 後継者育成
- 設備・店舗の維持更新
- 高収益化
この考え方を踏まえると、正式な10億宣言では、売上高10億円への成長だけでなく、高収益化、地域価値、技術承継などを含めて評価する可能性があります。
PLからBS・キャッシュフロー経営への転換
福田氏が中小企業政策の重要な軸として示しているのが、「PLからBS、さらにBS・CF経営への転換」です。
PL経営
PLは損益計算書を意味します。
PLでは、売上高、売上原価、人件費、営業利益、経常利益、当期利益などを確認します。
これらは重要ですが、単年度の売上・利益だけでは、企業が将来も投資や賃上げを継続できるかを十分に判断できません。
BS経営
BSは貸借対照表を意味します。
- 現預金
- 売掛金
- 在庫
- 設備・建物
- 借入金
- 買掛金
- 自己資本
- 債務超過の有無
- 追加投資余力
- 追加借入余力
例えば、利益が出ていても、売掛金や在庫が増加して現預金が不足していれば、資金繰りは厳しくなります。
一方、短期的な利益が小さくても、人材、設備、研究開発、ブランド、システムなど、将来の成長につながる資産を積み上げている企業もあります。
キャッシュフロー経営
賃上げ、設備投資、借入金返済、研究開発、人材育成、事業承継を継続するためには、実際の現金が必要です。
そのため、10億宣言では、営業キャッシュフローや月別資金繰りも重要な評価項目になる可能性があります。
売上高が増えると、売掛金、在庫、仕入、人件費も増加します。
運転資金=売掛金+在庫-買掛金
仮に運転資金が売上高の15%必要な企業の場合、売上高3億円では約4,500万円、売上高10億円では約1億5,000万円が必要です。
つまり、成長によって約1億500万円の追加運転資金が必要になります。
設備投資だけでなく、成長に伴って増える運転資金まで金融機関と検討する必要があります。
10億宣言の対象企業
報道および中小企業庁資料から、次の企業が主な対象になると考えられます。
- 売上高1億円以上10億円未満
- 中小企業者等に該当する
- 売上高10億円、高収益化等の目標を持つ
- 成長の核となる商品、技術、顧客基盤等がある
- 経営者が経営改革に取り組む意思を持つ
- 地域金融機関が伴走支援する
- 地域経済への波及効果が期待できる
中小企業庁は、特色ある商品・サービス、独自の要素技術、潜在力のある経営者・技術者、地域の中核性など、財務数値だけでは表れにくい価値も評価する方針を示しています。
売上高の判定方法
次の事項は、現時点では未公表です。
- 直近決算期の売上高で判定するか
- 直近3期平均を用いるか
- 一時的に1億円を下回った企業を認めるか
- 単体売上高か連結売上高か
- グループ企業の売上高を合算するか
- 個人事業主を含めるか
- みなし大企業を対象とするか
- 既に10億円をわずかに超えた企業を対象とするか
宣言できる企業の範囲と、補助金を利用できる企業の範囲が異なる可能性もあります。
赤字企業は対象になるか
赤字企業を一律に対象外とする方針は示されていません。
例えば、次のような一時的な赤字であれば、成長支援の対象になる余地があります。
- 新工場、新店舗への先行投資
- 新製品の研究開発費
- 採用・教育費の先行負担
- 旧事業の整理費用
- 原材料高や災害による一時的な損失
一方、慢性的な営業赤字、債務超過、過大債務、税金・社会保険料の滞納、返済条件の変更中などの場合は、成長投資よりも経営改善・再生支援が優先される可能性があります。
売上高10億円までに必要な成長率
現在の売上高によって、10億円到達の難易度は大きく異なります。
| 現在の売上高 | 5年間で10億円を達成するための年平均成長率 |
|---|---|
| 1億円 | 約58.5% |
| 2億円 | 約38.0% |
| 3億円 | 約27.2% |
| 4億円 | 約20.1% |
| 5億円 | 約14.9% |
| 6億円 | 約10.8% |
| 7億円 | 約7.4% |
| 8億円 | 約4.6% |
| 9億円 | 約2.1% |
年平均成長率=(目標売上高÷現在売上高)の1÷計画年数乗-1
現在の売上高が2億円の企業が5年間で10億円を目指す場合、毎年約38%の成長が必要です。
通常の営業努力や設備更新だけで達成することは難しく、次のような複数の成長エンジンが必要になります。
- 新製品・新サービス
- 新市場への進出
- 大手顧客の獲得
- 新店舗・新工場
- 輸出
- M&A
- 値上げ・単価改善
- 生産能力の増強
- 自社ブランド化
- サブスクリプション化
金融機関はどのように関与するのか
10億宣言の大きな特徴は、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合などが、企業の成長計画へ関与する点です。
中小企業庁は、売上高1億円以上10億円未満の企業について、銀行融資を通じた経営規律、いわゆる「デッド・ガバナンス」が有効な層と整理しています。
行政が約60万社を直接支援するのではなく、日常的に企業の財務や事業を把握する地域金融機関を通じて、支援対象企業を発掘・育成する仕組みです。
想定される金融機関の役割
- 企業の財務分析
- 事業性・市場性の評価
- 成長計画の策定支援
- 必要投資額の算定
- 売上・利益計画の検証
- 設備資金の融資
- 補助金入金までのつなぎ融資
- 増加運転資金の融資
- プロパー融資
- 日本政策金融公庫との協調融資
- 販路・取引先の紹介
- 人材紹介
- M&A支援
- 計画実行後のモニタリング
従来型の補助金に見られる形式的な確認書だけではなく、具体的な資金供給と継続的な伴走支援が求められる可能性があります。
プロパー融資が重視される理由
中小企業庁は、宣言企業が、信用保証付き融資だけではなく、金融機関が自ら信用リスクを負うプロパー融資を調達できる経営基盤を構築することを重視しています。
企業が成長すると、設備資金だけでなく、仕入、在庫、売掛金、人件費、広告費などの運転資金も増加します。
補助金では、運転資金や補助対象外経費を十分に賄えません。
したがって、10億円を目指す企業には、金融機関から継続的に成長資金を調達できる財務体質と情報開示体制が必要です。
10億宣言に記載すると推定される内容
1.企業概要
- 企業名
- 法人番号
- 所在地
- 代表者
- 設立年月
- 資本金
- 従業員数
- 事業内容
- 主要製品・サービス
- 主要拠点
- 現在の売上高
- グループ企業
2.経営者のビジョン
- どのような会社を目指すか
- なぜ成長する必要があるか
- なぜ10億円を目指すのか
- 顧客、従業員、地域に何を提供するか
- 経営者自身が何を変えるか
単に「売上高10億円を目指す」と記載するのではなく、成長によって実現したい顧客価値、従業員の待遇、地域への貢献まで示す必要があります。
3.事業価値
- 独自技術
- 特許・知的財産
- 熟練人材
- ブランド
- 顧客基盤
- 仕入網
- 地域での信用
- 許認可
- 業界特化ノウハウ
- 高い顧客継続率
- 地域に不可欠なサービス
「技術力が高い」「顧客から評価されている」などの抽象的な表現だけでは不十分です。
加工精度、納期、不良率、顧客継続率、市場シェア、特許、表彰、受注実績などの客観的な根拠が必要になります。
4.成長戦略
売上計画は、次のように分解して説明する必要があります。
一般的な事業:売上高=顧客数×顧客単価×購入頻度
製造業:売上高=生産能力×設備稼働率×販売単価×製品構成
店舗型事業:売上高=店舗数×1店舗当たり来店客数×客単価×営業日数
SaaS:売上高=契約社数×月額単価×12か月-解約による減少
年度別の売上高だけを記載するのではなく、顧客数、単価、販売数量、生産能力、店舗数などの積み上げ根拠が必要です。
5.経営基盤
- 組織図
- 採用計画
- 人材育成
- 幹部・右腕人材
- 権限移譲
- 人事評価制度
- 月次決算
- 製品別・部門別採算管理
- 原価管理
- 在庫管理
- DX・AI
- 内部統制
- 情報セキュリティ
6.地域経済への貢献
- 地域雇用の増加
- 従業員の賃上げ
- 地域企業からの仕入増加
- 地域内への工場・店舗・拠点整備
- 技術・技能の承継
- 地域ブランドの強化
- 地域企業との共同開発
- M&Aによる地域企業の事業承継
- 地域外・海外からの売上獲得
- 地域生活インフラの維持
7.金融機関の伴走支援方針
- 支援金融機関名
- 計画策定への関与
- 設備資金の融資方針
- 運転資金の融資方針
- プロパー融資の検討
- 政策金融との連携
- モニタリング頻度
- 販路・人材・M&A支援
宣言企業の選定ロジック
中小企業庁の資料には「選定プロセス」が明記されています。
そのため、申請すれば原則掲載される制度ではなく、事業価値、成長可能性、経営者の本気度、金融機関の支援姿勢などによる選定が行われる可能性があります。
経営者の本気度
- 経営者自身が計画を説明できるか
- 補助金獲得だけが目的ではないか
- 組織・事業を変える意思があるか
- 自己資金を投じる意思があるか
- 権限移譲を行えるか
事業価値
- 独自性があるか
- 顧客が対価を支払う価値があるか
- 地域に残す価値があるか
- 成長の核となる商品・技術があるか
- 競合との差を説明できるか
市場性
- 市場規模が十分か
- 市場が成長しているか
- 顧客ニーズが確認されているか
- 販路が具体的か
- 地域外・海外需要を獲得できるか
計画の実現可能性
- 売上計画が積み上げ式になっているか
- 生産能力と販売数量が整合しているか
- 採用計画が現実的か
- 必要な許認可を取得できるか
- 実施スケジュールが現実的か
収益性・生産性
- 営業利益率が改善するか
- 付加価値額が増加するか
- 一人当たり付加価値額が増加するか
- 投資回収が可能か
- 売上だけを追う計画になっていないか
賃上げ
- 一人当たり給与支給額
- 事業場内最低賃金
- 賃上げ率
- 賃上げ原資となる利益
- 採用と既存従業員の処遇改善
財務・キャッシュフロー
- 自己資本比率
- 有利子負債
- 営業キャッシュフロー
- 借入金返済余力
- 増加運転資金
- 補助金入金までの資金
- 投資後の資金繰り
- 金融機関の融資方針
補助金上限1億円への引上げ
報道によると、10億宣言企業について、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の補助上限を9,000万円から1億円程度へ引き上げる方針です。
増額幅は1,000万円、増加率は約11.1%です。
そのため、補助上限の引上げだけで投資判断が大きく変わるとは限りません。
制度の本質は、補助金と金融機関の融資、政策金融、人材、販路、経営支援を組み合わせる点にあります。
補助率が2分の1の場合
| 補助対象経費 | 補助額 |
|---|---|
| 5,000万円 | 2,500万円 |
| 1億円 | 5,000万円 |
| 1億5,000万円 | 7,500万円 |
| 1億8,000万円 | 9,000万円 |
| 2億円 | 1億円 |
| 3億円 | 上限1億円 |
補助上限1億円を満額利用するには、補助率2分の1の場合、原則として2億円以上の補助対象投資が必要です。
さらに、補助金が事業完了後に支払われる場合、企業は一時的に事業費全体を用意する必要があります。
- 自己負担分
- 補助金入金までのつなぎ資金
- 消費税
- 補助対象外経費
- 増加運転資金
- 予備費
この点からも、金融機関による融資・伴走支援が重要になります。
宣言と補助金は別審査になる可能性が高い
10億宣言を行っただけで、補助金が自動的に採択される可能性は低いと考えられます。
- 10億宣言企業として選定される
- 新事業進出・ものづくり補助金へ申請する
- 新規性、市場性、投資効果、賃上げ、資金計画等の審査を受ける
100億宣言でも、宣言は成長加速化補助金の申請要件の一つですが、宣言企業が自動的に補助金へ採択されるわけではありません。
10億宣言と100億宣言の違い
| 項目 | 10億宣言 | 100億宣言 |
|---|---|---|
| 制度開始 | 2027年度予定 | 2025年度開始 |
| 現在の売上高 | 主に1億円以上10億円未満 | 主に10億円以上100億円未満 |
| 目標 | 10億円、高収益化等 | 100億円 |
| 金融機関 | 伴走支援を強く求める方向 | 必ずしも必須ではない |
| 選定 | 選定プロセスを設ける方向 | 要件確認後に公表 |
| 主な補助金 | 新事業進出・ものづくり補助金 | 中小企業成長加速化補助金 |
| 補助上限 | 1億円程度の予定 | 5億円 |
| 主な課題 | 戦略経営、組織化、財務基盤 | 大規模投資、M&A、経営人材 |
| 地域での役割 | 枝葉・根 | 幹・ハブ |
10億宣言は、100億宣言の縮小版ではありません。
売上高数億円の企業には、社長依存、管理体制不足、資金調達力不足など、100億円を目指す企業とは異なる課題があります。
そのため、設備投資だけでなく、経営管理、組織化、金融機関の伴走が強く組み込まれると考えられます。
中小企業の4類型と10億宣言
2020年版中小企業白書では、中小企業が目指す役割を次の4類型に整理しています。
- グローバル型
- サプライチェーン型
- 地域資源型
- 生活インフラ関連型
| 4類型 | 10億企業の方向性 |
|---|---|
| グローバル型 | 輸出・海外展開を進める成長型 |
| サプライチェーン型 | 技術・生産能力を強化する成長型 |
| 地域資源型 | 地域ブランドを磨く価値追求型 |
| 生活インフラ関連型 | 地域サービスを維持する価値追求型 |
同じ売上高、同じ業種でも、海外展開を目指す企業と、地域に不可欠な技術やサービスを守る企業では、必要な支援が異なります。
10億宣言でも、企業が地域経済の中でどの役割を担っているかが評価される可能性があります。
10億宣言を活用しやすい企業
製造業
- 生産能力不足で受注を断っている
- 半導体、医療、航空宇宙等へ進出する
- OEMから自社ブランドへ転換する
- 自動化によって生産量を増やす
- 特殊技術を承継する
- 海外輸出を開始する
食品・小売・外食
- 多店舗展開する
- セントラルキッチンを整備する
- 地域ブランドを全国販売する
- EC・卸売を拡大する
- 高付加価値商品へ転換する
宿泊・観光
- 高付加価値宿泊施設へ改修する
- インバウンド需要を獲得する
- 複数施設を展開する
- 地域事業者との連携を強化する
- 予約・顧客管理をDX化する
IT・サービス
- 業界特化型SaaSを拡大する
- AIを使った新サービスを開発する
- 月額課金モデルへ転換する
- 全国営業組織を構築する
- カスタマーサクセスを強化する
地域インフラ型企業
- 地域交通・物流を維持する
- 修理・保守技術を承継する
- 地域医療・福祉を支える
- 建設・設備維持を担う
- 後継者・技術者を育成する
利用が難しい可能性がある企業
- 10億円を目指す具体的な事業がない
- 売上増加によって赤字が拡大する
- 過大債務・債務超過である
- 補助金がなければ事業が成立しない
- 単純な老朽設備更新しか予定していない
- 社長以外に事業を担う人材がいない
- 市場・顧客調査を行っていない
- 売上計画に数量・単価の根拠がない
- 金融機関に財務情報を開示していない
- 賃上げ原資を確保できない
- 宣言内容を公開したくない
すべての中小企業が売上高10億円を目指す必要はありません。
少人数で高収益を目指す企業、地域密着を重視する企業、生活との両立を優先する事業者など、それぞれに合理的な経営目標があります。
制度は、無理な規模拡大を求めるのではなく、企業が目指す価値を実現できる経営基盤を整える方向で設計されることが重要です。
企業が今から準備すべきこと
1.直近3期の財務分析
- 売上高
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
- EBITDA
- 付加価値額
- 一人当たり付加価値額
- 一人当たり給与
- 自己資本比率
- 借入金
- 営業キャッシュフロー
- 売掛金回収期間
- 在庫回転期間
2.10億円までの売上を分解する
例えば、現在売上高5億円の企業が10億円を目指す場合、次のように成長要因を分解します。
| 成長施策 | 売上増加額 |
|---|---|
| 既存商品の値上げ・単価改善 | 5,000万円 |
| 新設備による生産能力増強 | 1億5,000万円 |
| 新製品 | 1億円 |
| 新規大手顧客 | 1億円 |
| 海外販売 | 5,000万円 |
| M&A | 5,000万円 |
| 合計 | 5億円 |
各施策について、顧客、数量、単価、開始時期、責任者、必要投資を設定します。
3.メインバンクへ相談する
- 会社概要
- 直近3期の決算書
- 月次試算表
- 現在の経営課題
- 10億円までの成長計画
- 投資内容
- 必要資金
- 自己資金
- 補助金予定額
- 返済計画
- 採用・賃上げ計画
- 月別資金繰り表
補助金申請の直前ではなく、事業構想の段階から金融機関を巻き込むことが重要です。
4.売上高10億円時点の組織図を作る
- 営業責任者
- 生産・店舗責任者
- 財務・管理責任者
- 人事・採用担当
- 新規事業責任者
- 品質管理担当
- DX・システム担当
内部昇格、外部採用、副業人材、業務委託のどの方法で確保するかも決める必要があります。
5.補助金がなくても成立するか確認する
- 補助金が満額採択された場合
- 補助金が減額された場合
- 補助金が不採択だった場合
補助金がなければ完全に成立しない事業は、金融機関からも事業性を疑われる可能性があります。
今後の要綱で確認すべき事項
- 制度の正式名称
- 売上高1億円以上が必須か
- 売上高の判定年度
- 単体・連結の取扱い
- 個人事業主の取扱い
- みなし大企業の取扱い
- 高収益化のみを目指す企業の取扱い
- 10億円達成までの期限
- 宣言企業の選定件数
- 選定主体
- 宣言の有効期間
- 金融機関の支援表明様式
- 融資内諾の必要性
- プロパー融資の必要性
- 補助上限1億円の適用条件
- 補助率
- 最低投資額
- 建物費の取扱い
- システム費・広告費・人件費の取扱い
- 付加価値額要件
- 一人当たり賃金要件
- 最低賃金要件
- 賃上げ未達時の返還
- 宣言内容の公表範囲
- 進捗報告の頻度
- 10億円未達時の取扱い
- 宣言取消しの要件
- 補助金返還との関係
- 100億宣言への移行方法
- 価値追求型企業向け支援の有無
よくある質問
10億宣言をすれば1億円の補助金を受けられますか
自動的には受けられないと考えられます。
まず10億宣言企業として選定され、その後、補助金の事業計画審査を受ける二段階構造になる可能性が高いです。
補助上限1億円なら、1億円の設備を無料で導入できますか
できません。
補助率が2分の1であれば、1億円の投資に対する補助額は5,000万円です。
補助上限1億円を満額利用するには、原則として2億円以上の補助対象経費が必要です。
売上高1億円未満でも宣言できますか
報道上は、売上高1億円以上10億円未満が主な対象です。
売上高1億円未満の小規模事業者については、商工会・商工会議所等が伴走し、売上高1億円や高収益化を目指す別の成長計画制度が検討されています。
必ず売上高10億円を目指す必要がありますか
報道では、売上高10億円が基本目標です。
一方、中小企業庁資料には「10億企業や高収益化など成長経営」、福田達夫氏の構想には「価値追求型企業」も示されています。
売上高10億円が必須となるのか、高収益化や地域価値の向上も含まれるのかは、正式な要綱を確認する必要があります。
金融機関から借入れがなくても利用できますか
現時点では不明です。
ただし、金融機関の伴走支援が制度の中心となるため、無借金企業でも、成長計画、資金調達、財務管理について地域金融機関との連携が必要になる可能性があります。
10億円を達成できなかった場合、補助金返還になりますか
現時点では未公表です。
宣言した売上目標の未達と、補助金上の賃上げ・付加価値額要件の未達は、別に扱われる可能性があります。
最終的には、公募要領、交付規程、宣言要領を確認する必要があります。
まとめ
10億宣言は、売上高1億円以上10億円未満の企業を主な対象として、売上高10億円、高収益化、経営の質の向上を目指す企業を重点的に支援する制度です。
- 2027年度から開始する方針
- 2026年冬頃に要綱公表予定
- 売上高1億円以上10億円未満が主な対象
- 対象企業は全国約60万者
- 補助上限を9,000万円から1億円程度へ引上げ予定
- 地方銀行・信用金庫等が計画策定へ関与
- 経営者と金融機関の本気度を確認
- 宣言企業には選定プロセスを設ける方向
- 売上だけでなく、利益、付加価値、賃金、BS、キャッシュフローを重視
- 成長型と価値追求型に応じた支援を検討
- 100億円企業、小規模事業者と一体で地域経済を育成
この制度の本質は、補助上限を1,000万円増額することではありません。
経営者が成長戦略を明確にし、金融機関が事業性と資金計画を検証し、国が補助金、政策金融、人材、販路、M&A等の支援を集中させることで、売上高数億円の企業を持続可能な地域中核企業へ変えることにあります。
福田達夫氏の政策構想を踏まえれば、100億円企業という「幹」だけを育てるのではなく、10億円企業という「枝葉・根」と、小規模事業者という「下生え」を一体的に育てる地域経済政策といえます。
10億宣言は、単なる補助金制度ではなく、中小企業経営を「削る経営」から「未来を積み上げる経営」へ転換する政策として理解する必要があります。
参考資料
- 中小企業庁「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略に伴う政策の見直しについて」
- 中小企業政策審議会第45回議事録
- 中小企業庁「100億宣言」
- 中小企業庁「2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」
- 中小企業庁「四つの役割・機能と目指す姿」
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 中小企業庁「小規模企業白書」
- 経済産業省「地域未来牽引企業」
- 経済産業省「地域未来投資促進法」
- 福田達夫衆議院議員 note
※本記事は2026年7月10日時点の報道、公表資料および政策提言を基に作成しています。福田達夫氏のnoteや自民党の提言は、政策思想・検討方向を示す資料であり、法令、要綱、公募要領ではありません。正式な申請要件、補助率、対象経費、審査基準等については、今後公表される中小企業庁の公式資料をご確認ください。