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経営企画が競合・業界動向を追う仕事は、情報源の数が多いわりに一つひとつの情報密度が低く、時間対効果が悪くなりがちです。日経の業界ページを毎朝チェックし、競合のIRを定期巡回し、官公庁の審議会資料に目を通す──これを1人で全部やるのは現実的でなく、かといって外部のデータベースサービス(SPEEDA等)は月10万円超の費用がかかります。
この記事では、EDINETとTDNETの公開データを使って、自社業界に特化した開示監視基盤をClaude Codeで自作する方法を整理します。投資家向けのツールではなく、経営企画の意思決定資料として使う設計です。
EDINETで取れるもの、TDNETで取れるもの
まず情報源の整理です。
EDINET(金融庁)
- 有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書
- 臨時報告書(大規模な業績予想修正、M&Aの開示等)
- 大量保有報告書、公開買付届出書
- 更新頻度は日次、過去データは10年以上蓄積
- XBRL形式でタグ付きデータが取得可能(APIあり)
- 商用利用可(PDL1.0)
TDNET(東証)
- 適時開示情報(決算短信、業績予想修正、M&A開示、事故・事件)
- 開示即時反映(市場時間中は数分以内)
- PDFが中心、機械可読性はEDINETより低い
- 商用利用は別途要確認(個別に東証への照会が必要)
経営企画の用途では、EDINETを四半期〜年次のベンチマーク分析に使い、TDNETを日次の変化点検知に使うのが自然な役割分担です。
EDINETでやること:四半期〜年次の競合ベンチマーク
EDINET APIでXBRLを取得し、自社業界の競合各社の以下を継続的に追跡します。
- 売上高・営業利益率の四半期推移
- セグメント別収益構造の変化
- 設備投資額、R&D費用
- 従業員数、平均給与、平均年齢
- 関連会社・持分法投資先の動き
筆者はEDINETから約3,800社分の財務データを蓄積したデータベース(SignalBase)を運用していますが、経営企画の用途では自社業界20〜50社程度に絞った小規模版で十分です。
Claude Codeに以下の粒度で作業を指示すると、1日〜2日で初期版が立ち上がります。
- EDINET APIから指定業種コードの提出者一覧を取得するスクリプト
- 各社のXBRLを定期的にダウンロードするバッチ
- 必要タグ(売上高、営業利益等)を抽出してPostgreSQL/SQLiteに格納
- Streamlit/Next.jsで業界ダッシュボード
TDNETでやること:日次の変化点検知
TDNETはRSSフィードとWebスクレイピングの組み合わせで監視します。筆者自身はトレーディング用途でWebSocket+MutationObserverによるサブ0.1秒の検知を組んでいますが、経営企画の用途でそこまで速い検知は不要です。1時間ごとのポーリングで十分。
監視対象の設計が重要で、以下のフィルターを組みます。
- 自社業界の競合10〜30社:全開示を通知
- 業界キーワード(例:「再生可能エネルギー」「半導体製造装置」):全上場企業横断で検出
- 取引先・仕入先:業務提携、M&A、業績予想修正を重点監視
- 官公庁関連:業界所管官庁からの発表、審議会資料
検出した開示は、Claude APIで要約させてからSlackなり社内ポータルに流します。要約のプロンプトは「経営企画として知っておくべき示唆を3点以内で」と明示的に指示するのがコツです。開示そのものの丸要約だと情報量が落ちすぎます。
官公庁・シンクタンク情報源の統合
競合監視だけでなく、以下も同じ基盤に統合できます。
- パブリックコメント:e-Govから業界関連の意見募集を抽出
- 審議会資料:所管官庁の会議資料をキーワード検索
- 統計公表スケジュール:経済構造実態調査、法人企業統計等の公表予告
- 業界団体のプレス:主要業界団体の公式発表
ここまで統合すると、月10万円のデータベースサービスで得られる情報の7〜8割はカバーできます。残りの2〜3割(独自調査レポート、企業DB、クレジット情報等)は外部サービスで補完するのが現実的な棲み分けです。
実装時の落とし穴
複数案件で構築してみて、詰まりがちなポイントを挙げておきます。
- EDINET XBRLのタグ体系は思ったより複雑:連結/単体、期間、科目の組み合わせで数千タグ。最初は売上高・営業利益・総資産など10タグに絞る
- TDNETは商用利用の線引きが曖昧:社内利用の範囲で使うなら問題になりづらいが、外部提供するサービスに組み込む場合は東証に照会すべき
- 決算短信PDFからの数値抽出はやや不安定:可能な限りEDINETのXBRLに寄せる
- 通知の多すぎ問題:監視対象を広げすぎると通知疲れで誰も見なくなる。最初は狭く始めて、見落としが発生したら広げる
経営企画がこれを持つ意味
このような監視基盤を自作する価値は、単なるコスト削減ではありません。
フィルター設計を経営企画自身がコントロールできる点が本質です。市販のデータベースは汎用設計のため、自社固有の関心事(例:「当社の特定の競合が特定の地域で動いた場合を最優先で知りたい」)に合わせた粒度の通知はできません。自作なら、関心の変化に合わせてフィルターを継続的に調整できます。
また、経営企画として一次ソースに直接触れる経験が組織能力として蓄積されます。要約レポートを読むだけの経営企画と、有価証券報告書の注記を自分で解析できる経営企画は、経営層への提案の重みが違います。
この内容を実務に落とし込む研修をご提供しています。
- 法人向け(人材開発支援助成金活用・12時間コース):経営企画チーム向け。自社業界の監視基盤を研修期間中に立ち上げるハンズオン形式。
- 個人向け(2時間パッケージ):経営企画担当者個人向けに、EDINET API接続+1業界の基礎ダッシュボードまでをその場で構築。