この記事のポイント

  • 経済産業省の令和9年度(2027年度)概算要求は総額7兆7,859億円。令和8年度当初予算3兆693億円の約2.5倍、令和7年度補正と令和8年度当初を足した約5.3兆円と比べても2兆円以上多い過去最大の要求。
  • 増加の8割は新設の「強く豊かな日本」投資枠6兆3,116億円。要求上限のない枠で、AI・半導体、経済安全保障、GX、中小企業投資支援に集中している。
  • 「補正予算依存からの脱却」が明文化され、当初と補正を一体化した要求になった。従来は年末の補正で措置していた中小企業向け基金や成長投資が当初予算に載り、公募の年間リズムが変わる可能性がある。

全体像

区分令和9年度 概算要求令和8年度 当初令和7年度 補正
一般会計(投資枠・エネ特繰入を除く)4,532億円3,754億円1兆4,911億円
「強く豊かな日本」投資枠6兆3,116億円4兆5,250億円(相当分)
 うちAI・半導体産業基盤強化フレーム5,272億円1兆2,390億円2,525億円
 うちGX推進対策費1兆2,594億円6,050億円3,572億円
 うちその他4兆5,250億円
エネルギー対策特別会計2兆6,351億円2兆5,333億円7,098億円
特許特別会計1,726億円1,606億円
経済産業省関連合計7兆7,859億円3兆693億円2兆2,009億円

このほか、令和10年度以降の国庫債務負担行為404億円と、国家備蓄石油の放出に伴う買戻し費用3,850億円を別途計上している。

令和7年度補正の一般会計1兆4,911億円には電気・ガス料金支援を含まない。エネルギー対策特別会計の内訳は、エネルギー需給勘定5,149億円、電源開発促進勘定2,167億円、原子力損害賠償支援勘定1,170億円で、それぞれ前年当初から増額されている。

「強く豊かな日本」投資枠とは

令和9年度の概算要求基準(2026年7月30日閣議了解)で新設された枠組み。日本成長戦略と地域未来戦略に基づく成長投資・危機管理投資を対象に、要求上限を設けず、複数年度の計画を基本とし、金額を明示しない事項要求も認められている。政府全体で2040年度までに官民投資370兆円超を実現するための予算上の受け皿で、政府全体の概算要求は一般会計で143兆円前後と、前年の122.4兆円を大幅に上回った。

経産省はこの枠に6兆3,116億円を要求し、内訳はAI・半導体産業基盤強化フレーム5,272億円、GX推進対策費1兆2,594億円、その他4兆5,250億円となっている。7兆7,859億円のうち8割がこの枠に乗っており、通常歳出の一般会計4,532億円は前年の3,754億円から2割増にとどまる。

括弧書きの読み方

表記意味
(投資枠)全額を投資枠で要求
(一部投資枠)一部を投資枠、残りを通常歳出で要求
(投資枠(GX))投資枠のうちGX経済移行債を財源とする部分
(投資枠(AI・半導体フレーム))投資枠のうちAI・半導体産業基盤強化フレーム
(エネ特)エネルギー対策特別会計
<復興特>東日本大震災復興特別会計

各事業の【 】内は「令和9年度要求額(R8当初、R7補正)」の順で、括弧内の前年度額は比較用。要求額に前年度額が含まれているわけではない。

補正予算依存からの脱却

概算要求基準には「補正予算依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算に計上する」と明記された。経産省の要求はこの方針に沿って当初と補正を一体化しており、前年サイクル(令和7年度補正2兆2,009億円+令和8年度当初3兆693億円=約5.3兆円)に対し約2.5兆円多い水準になっている。

この転換の影響が最も大きいのが中小企業政策で、従来は年末の補正で基金に積んでいた省力化・持続化・事業承継などの補助金が、中小機構運営費交付金6,980億円(前年当初188億円)として当初予算側に計上された。一方で、電気・ガス料金支援のような緊急対応型の補正は今年も既に編成されており(令和8年度補正第1号、2026年6月成立)、補正そのものがなくなるわけではない。

5本柱と金額

要求額うち投資枠R8当初R7補正
Ⅰ. 戦略分野への官民投資5兆6,954億円4兆8,055億円2兆5,123億円1兆709億円
 (1) AX(AI・半導体・ロボット)1兆9,913億円1兆9,614億円1兆2,557億円2,693億円
 (2) 経済安全保障・防衛産業基盤強化1兆5,472億円1兆5,363億円427億円2,996億円
 (3) 資源エネルギー・GX1兆9,838億円1兆1,426億円1兆2,107億円4,573億円
 (4) コンテンツ産業等1,730億円1,652億円33億円447億円
Ⅱ. 「攻めの経営」・イノベーション社会実装3,009億円1,838億円1,163億円285億円
Ⅲ. 賃上げ起点の成長戦略と地域産業クラスター形成1兆3,841億円1兆2,818億円913億円7,905億円
Ⅳ. グローバル・バリューチェーン再構築6,746億円5,919億円509億円2,005億円
Ⅴ. 福島復興・災害復旧・産業レジリエンス6,505億円5,492億円578億円684億円

各柱の金額は再掲を含む。経産省資料では「AX」を「AI・半導体・ロボット」と定義している。

Ⅰ. 戦略分野への官民投資 5兆6,954億円

AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、合成生物学・バイオ、マテリアル(重要鉱物・部素材)、防衛産業、資源・エネルギー安全保障・GX、航空・宇宙、創薬・先端医療、コンテンツといった戦略分野に官民投資支援を行う。

AX(AI・半導体・ロボット)1兆9,913億円

事業R9要求R8当初/R7補正
AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業8,964億円3,873億円/―
ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業3,706億円6,738億円/1,537億円
AIロボティクス戦略事業3,209億円(新規)
AIロボティクスの中核拠点事業1,333億円(新規)
半導体設計・製造基盤整備事業908億円―/988億円
廃炉フィジカルAI関連研究開発事業470億円(新規)
次世代半導体事業者への債務保証のためのIPA出資金320億円(新規)
防災AXプロジェクト(自律型データ連携基盤開発)221億円(新規)

超高齢社会・災害大国である日本の勝ち筋として、高齢者ヘルスケア、災害・廃炉、製造業の現場データを活用した現場起点のAI・ロボット実装を加速し、半導体まで一体で競争力強化を図る構成。AI・半導体産業基盤強化フレーム分は5,272億円で、令和8年度当初の1兆2,390億円から減っているが、フレーム外の投資枠で基盤モデル開発やロボティクスが大幅に積み増されている。

経済安全保障・防衛産業基盤強化 1兆5,472億円

事業R9要求R8当初/R7補正
鉱物資源開発・サプライチェーン安定化推進事業5,293億円75億円/937億円
化学品サプライチェーン強靱化事業2,187億円(新規)
量子コンピュータの産業化に向けた開発の加速及び環境整備2,039億円―/1,004億円
安定供給確保支援事業(重要鉱物)1,390億円125億円/―
医療機器スタートアップ等エコシステム強化事業1,000億円38億円/―
経済安全保障に資する宇宙産業の基盤強化683億円(新規、国庫債務負担行為含め762億円)
蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業415億円(新規)
創薬ベンチャーエコシステム強化事業320億円(新規)

前年当初427億円から36倍。重要鉱物・化学品から先端技術までの供給網強靱化と技術流出対策を進め、無人航空機などデュアルユース技術を含めた防衛産業基盤強化の戦略を関係省庁一体で策定する。

資源エネルギー・GX 1兆9,838億円

事業R9要求R8当初/R7補正
省エネルギー・非化石転換の投資促進・社会実装支援事業2,108億円840億円/550億円
次世代革新炉の技術開発・産業基盤強化支援事業1,411億円1,220億円/60億円
GXサプライチェーン構築支援事業1,134億円497億円/55億円
クリーンエネルギー自動車導入促進補助金1,100億円―/1,100億円
排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業881億円417億円/―
電源立地地域対策交付金842億円794億円/―
持続可能な航空燃料(SAF)の製造・供給体制構築支援事業700億円―/100億円
水素等のサプライチェーン構築のための価格差に着目した支援事業655億円363億円/―
石油天然ガス田の探鉱・資産買収等事業に対する出資金604億円427億円/197億円
高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金530億円―/570億円
充電・充てん設備等導入促進事業426億円―/500億円
系統用蓄電池等の電力貯蔵システム導入支援事業399億円350億円/80億円
大規模系統整備等事業368億円(新規)
フュージョンエネルギー発電実証推進事業326億円―/200億円
原油供給源多角化促進事業150億円(新規)

エネルギー安定供給・経済成長・脱炭素の同時実現に向け、エネルギー政策とGX政策を一体で進める。GX経済移行債を財源とする投資枠(GX)は21事業で、前年当初から軒並み増額要求となっている。

コンテンツ産業等 1,730億円

コンテンツ産業成長投資支援事業1,652億円(前年当初5.5億円、R7補正350億円)が中心。日本発コンテンツの2033年海外売上20兆円目標に向けた戦略的な官民投資を推進する。国際博覧会事業62億円、伝統的工芸品支援事業11億円、スポーツの成長産業化支援2.0億円(新規)も含む。

Ⅱ. 「攻めの経営」・イノベーション社会実装 3,009億円

コーポレートガバナンス・知財・人材を梃子に成長投資を促す「攻めの経営」を実現し、稼ぐ産業へ構造転換を図る。官公庁調達の柔軟化による新たな需要創出、スタートアップ・ファイナンス整備、産業競争力・研究力の中核となる大学群の形成などを進める。

事業R9要求R8当初/R7補正
産業技術総合研究所事業872億円(国庫債務負担行為含め1,044億円)674億円/110億円
医療機器スタートアップ等エコシステム強化事業(再掲)1,000億円38億円/―
創薬ベンチャーエコシステム強化事業(再掲)320億円(新規)
科学とビジネスの近接化時代の大規模産学連携拠点形成事業105億円―/103億円
製品評価技術基盤機構事業97億円84億円/7.2億円
フュージョンエネルギー産業基盤強化事業62億円(新規、国庫債務負担行為含め142億円)
イノベーション創出のためのフロンティア育成・基盤構築事業61億円46億円/―
地域の産業クラスター形成・地方発AXに向けた中堅・中小企業支援事業26億円の内数6.8億円の内数/10億円
戦略分野等におけるスキル可視化・リスキリング基盤整備事業13億円―/11億円
中小企業の知財活用及び金融機能活用による企業価値向上支援事業1.9億円1.5億円/―

Ⅲ. 賃上げ起点の成長戦略と地域産業クラスター形成 1兆3,841億円

変化に挑む中小企業の経営改革を後押しし、「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環の実現に加え、地方発AXを推進する。産業の担い手確保に資する生活基盤の維持に向けたエッセンシャルサービスの生産性向上・供給力強化、産業クラスター形成支援、産業用地整備も含む。前年当初913億円の約15倍で、5本柱の中で最も伸び率が大きい。

事業R9要求R8当初/R7補正
中小企業基盤整備機構運営費交付金事業6,980億円188億円/3,400億円
新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業2,200億円(新規)
地域の産業クラスター形成に向けたサプライチェーン形成支援補助金1,000億円(新規)
日本政策金融公庫補給金・出資金604億円169億円/40億円
中小企業信用補完制度関連補助事業518億円32億円/152億円
中小企業活性化・事業承継総合支援事業280億円139億円/74億円
中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業96億円33億円/49億円
中小企業取引対策事業40億円29億円/8.3億円

中小機構交付金6,980億円には、中小企業成長加速化補助金、省力化・デジタル化・AI投資補助金、小規模事業者持続化補助金、M&A・事業承継補助金の4本が内包される。投資枠一覧では中小企業資金繰り支援事業874億円、中小企業支援事業約280億円、Go-Tech事業約128億円、大規模成長投資補助金(後年度負担分)約1,376億円も計上されている。

Ⅳ. グローバル・バリューチェーン再構築 6,746億円

進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に貢献しながら、世界市場獲得と経済安全保障の確保を実現するグローバル・バリューチェーンを再構築する。日本貿易振興機構(JETRO)事業754億円(前年当初295億円)、鉱物資源開発・サプライチェーン安定化5,293億円(再掲)、技術・人材協力を通じた新興国との共創推進36億円、東アジア経済統合研究協力拠出金11億円、日本貿易保険への交付金10億円など。

Ⅴ. 福島復興・災害復旧・産業レジリエンス 6,505億円

福島復興に最後まで責任を持って取り組み、能登半島地震、令和6年9月奥能登豪雨、令和8年熊本地震からの復旧・復興を継続・加速する。原子力損害賠償・廃炉支援機構交付金470億円、廃炉・汚染水・処理水対策205億円、自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金219億円、ALPS処理水関連の水産業支援65億円、南海トラフ巨大地震旧鉱物採掘区域防災対策40億円、休廃止鉱山鉱害防止35億円など。廃炉フィジカルAI(470億円)やAIロボティクス中核拠点(1,333億円)も福島復興と一体で位置づけられている。

事項要求(金額未定)16項目

経済産業政策の重点に関連し、以下の項目は金額を明示せずに要求している。政府案の段階で上積みされる可能性がある。

  • AI・半導体・ロボット分野における量産投資・研究開発・社会実装に向けた重点支援
  • 先端技術分野及び重要物資に関する経済安全保障の確保
  • 経済安全保障上重要なスタートアップへの出資・債務保証
  • デュアルユース等の技術・生産基盤の強化
  • 革新的医薬品の国内開発の強化・上市環境の整備
  • エネルギー・食料等国民生活を支える基盤の戦略的強化
  • LNG運搬船の供給体制の構築
  • 産業競争力強化・経済成長及び排出削減の効果が高いGXの促進
  • 産業競争力強化に貢献する大学群の形成
  • スタートアップの製品・サービスの社会実装・市場導入の推進
  • 日本成長戦略の実行に係る民間投資を支える金融支援・政策手法の検討のための基盤構築
  • 地域未来戦略を踏まえた計画の実施
  • ライフデザインサービスの利用環境整備
  • グローバルサウス諸国との戦略的な連携強化の推進
  • 能登半島地震、令和6年9月奥能登豪雨及び令和8年熊本地震からの復旧・復興

補助金・基金の自己点検

国民からの約3万7千件の提案・意見を踏まえ、経産省は補助金・基金の自己点検を実施した。点検の観点は次の5つ。

  • 成果に基づく制度運用か
  • 目的に即した制度設計か
  • 透明性・効率性の高い事業構造・執行体制か
  • 事業者の自立や成長につながる仕組みか
  • 申請等に係る事務負担が過度でないか

これを受け、効果検証の強化を通じた政策効果の見込まれる事業への重点化と、不正・中抜き防止のための執行体制の効率化・透明化に取り組む。具体例として以下が挙げられている。

事業見直し内容
グローバルサウス未来志向型共創等事業国・地域別戦略に基づく戦略案件へ重点化。採択事業のプログレスレポートを年度内に作成・公表。AI等を活用して採択案件を分析し事業化成功率を向上
クリーンエネルギー自動車導入促進補助金車両性能に加え、充電インフラ整備、主要部品・重要鉱物の安定確保などメーカーの取組を総合評価して補助額を決定。高額車種への補助額抑制を継続
宇宙戦略基金事業有識者会議で勝ち筋の強化・ボトルネック解消の観点から技術開発テーマを整理し、重点化した要求に絞り込み
中小企業等事業再構築補助金「10億」宣言を踏まえた中長期経営計画と民間金融機関の姿勢を審査項目化し、成長支援創出型事業へ高度化。複数事業の一本化で管理費率を低減。申請システムに自動計算機能を実装し入力項目を最低限に

人件費・物価上昇への対応

官公需の取引適正化の一環として、経産省自身の調達でも人件費増・物価高を反映した予算要求を行う。既に実施している複数年契約の約37事業(ビルメンテナンス等)について全省的な調査を行った結果、約2億円の増額が必要となり概算要求に追加反映した。独立行政法人の交付金は所要額を要求し、消費者物価指数など賃金・物価の動向を踏まえて予算編成過程で改めて精査する。事務費では、価格転嫁・取引適正化、消費者相談、貿易救済措置調査に係る専門人材確保のため、非常勤職員等の経費を増額要求している。

今後のスケジュール

時期内容
2026年8月末概算要求提出
2026年9月〜12月財務省査定。事項要求の金額確定、投資枠の絞り込み。9月以降に事業別PR資料が公開
2026年12月下旬政府予算案閣議決定
2027年1月〜3月国会審議・予算成立
2027年4月以降令和9年度当初予算事業の公募開始

投資枠には要求上限がない一方で、財務省の査定は通常通り行われる。過去のGX関連事業では、令和8年度概算要求に対して当初予算で3〜5割削られた事業もあり(GXサプライチェーン構築支援事業792億円→497億円、省エネ投資促進1,810億円→840億円)、要求額がそのまま予算になるとは限らない。

出典