事業性担保融資は、会社の技術力、顧客基盤、ブランド、事業計画などを踏まえ、事業全体の価値に着目して資金調達を行う方法として注目されています。その制度上の中心となるのが、2026年5月25日に始まった「企業価値担保権」です。
不動産などの担保が少ない会社や、経営者保証の負担を抑えながら成長投資・事業承継を進めたい会社に、新たな選択肢をもたらします。一方で、会社の総財産を担保の対象とするため、将来の借入、重要な資産の売却、事業再編にも関わる制度です。
本記事では、中小・中堅企業の経営者・財務担当者に向け、制度の基本から審査、費用、既存融資との関係、契約時の注意点、返済が難しくなった場合まで詳しく解説します。
情報確認日:2026年9月5日。 金融庁などの公表資料に基づく解説です。後半の準備資料・計画例・数値例は、制度を実務に落とし込むための独自整理であり、全国共通の審査基準や実際の融資条件を示すものではありません。〔出典:1〕
目次
- 事業性担保融資を理解するための重要ポイント
- 事業性評価融資・ABL・経営者保証との違い
- 何が担保になるのか――会社の総財産と事業全体の価値
- 信託を使う仕組みと金融機関の役割
- どのような企業が利用できるか
- 企業価値担保権付き融資のメリット
- デメリット・リスク――契約前に理解すべき6点
- 経営者保証は不要になる?原則・例外・既存保証を整理
- 金融機関は何を審査するのか
- 融資額・金利・返済期間・費用はどう決まるか
- 既存借入・他行融資・信用保証付き融資と併用できるか
- 相談から融資実行までの流れ
- 準備しておきたい資料一覧
- 事業計画書に盛り込みたい内容
- 数字で理解する返済余力――資金繰りとDSCRの計算例
- コベナンツとは?融資後の約束事をどう設計するか
- どのような場面で活用できるか――5つの想定例
- 返済が難しくなった場合、会社はどうなるか
- 従業員・取引先はどう保護されるか
- 中小企業診断士・専門家に依頼できること
- どの銀行で相談できる?2026年の公表動向
- よくある質問
- 契約前に確認したい15項目
- 事業の将来性を、説明できる資金計画にする
1.事業性担保融資を理解するための重要ポイント
最初に押さえたいのは、次の6点です。
- 正式な担保制度の名称は「企業価値担保権」。 「事業性担保融資」は、本記事ではこの担保権を活用する融資を指す説明上の呼称として用います。
- 制度は2026年5月25日に施行済み。 これから導入予定の制度ではありません。
- 担保の対象は、将来取得する財産を含む会社の総財産。 技術や顧客基盤などが生む将来のキャッシュフローに着目します。
- 対象は会社法上の会社。 個人事業主や医療法人など、会社に該当しない主体は、そのままでは設定できません。
- 個人保証等の権利行使は法律で制限。 ただし、一定の情報開示義務違反などに対応する例外や、対象外の既存借入の扱いを確認する必要があります。
- 借りられる金額・金利・期間は個別審査。 担保権を設定すれば融資を受けられる制度ではありません。
| 項目 | 制度の基本 |
|---|---|
| 根拠法 | 事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号) |
| 制度開始 | 2026年5月25日 |
| 担保権の名称 | 企業価値担保権 |
| 担保設定者 | 株式会社、合同会社などの会社 |
| 担保の範囲 | 会社の総財産を一体として対象にする。将来取得する財産も含む |
| 設定の仕組み | 企業価値担保権信託契約を締結し、商業登記簿に登記 |
| 融資判断 | 事業の実態、将来の返済可能性、経営体制などを金融機関が評価 |
| 主な活用場面 | 成長投資、スタートアップ、事業承継、M&A、事業再生など |
| 相談先 | 取扱金融機関の法人営業・融資担当窓口 |
この制度の利用を考える際は、「不動産の代わりに何を担保にするか」だけでなく、「何に資金を使い、どの収益から返すか」まで一体で考えることが重要です。〔出典:2・3〕
2.事業性評価融資・ABL・経営者保証との違い
「事業性融資」と「企業価値担保権」は別の概念
一般に、事業性融資は、事業の将来性や成長可能性を踏まえて行う融資を指します。「事業性評価融資」も、財務数値だけでなく、ビジネスモデルや経営者の能力などを評価する融資を説明する際に使われます。
企業価値担保権は、そのような融資を支えるための担保制度です。事業性を評価する融資のすべてに、この担保権が必要なわけではありません。 金融庁も、事業性融資を進めるための選択肢の一つとして位置付けています。〔出典:5〕
主な融資・担保手法の比較
| 方法 | 主な評価・担保の対象 | 利用時に意識したいこと |
|---|---|---|
| 事業性評価を踏まえた融資 | 事業内容、経営力、将来収益など | 融資の考え方。担保・保証の有無は契約による |
| 不動産担保融資 | 土地・建物などの個別資産 | 不動産の担保価値と返済能力を確認する |
| ABL(動産・債権担保融資) | 在庫、機械設備、売掛債権など | 対象資産の残高・状態・回収可能性の管理が重要 |
| 企業価値担保権付き融資 | 将来取得分を含む会社の総財産を一体として捉える | 会社全体の収益力と、継続的な情報共有が重要 |
| 信用保証協会の保証付き融資 | 保証協会が金融機関への債務を保証 | 保証料、対象要件、担保・個人保証の条件を確認する |
| 株式担保 | 株主が保有する会社の株式 | 会社自身の財産を担保にする企業価値担保権とは異なる |
| 増資・出資 | 将来の企業成長への投資 | 原則として借入のような定期返済はないが、持分・議決権に影響する |
比較上のポイントは、ABLが主に個別の資産群に着目するのに対し、企業価値担保権は、それらを組み合わせて事業を続けることで生まれる価値を捉える点です。
また、株式の価値は会社の負債の影響を受けます。「社長の株式を担保にすれば同じ」とは整理できません。なお、検討段階で使われていた「事業成長担保権」は、現在の企業価値担保権につながる旧名称です。〔出典:1・4・17〕
3.何が担保になるのか――会社の総財産と事業全体の価値
現在の財産に加え、将来取得する財産も対象
法第7条では、会社の総財産を一体として企業価値担保権の目的にできるとしています。設定時点の資産だけを固定的に並べる仕組みではなく、将来会社の財産となるものも含まれます。
| 区分 | 事業全体の価値を考える際の具体例 |
|---|---|
| 有形の財産 | 土地、建物、機械設備、在庫など |
| 金銭債権等 | 売掛債権、預金など、会社に属する財産 |
| 知的財産・無形の価値 | 特許、商標、ソフトウェア、ノウハウ、のれんなど |
| 収益力を支える要素 | 顧客との関係、ブランド、業務の仕組み、組織としての技術力など |
| 将来の財産 | 将来取得する設備や、今後の取引から生じる会社の財産など |
上表の「収益力を支える要素」は、すべてを独立した物のように売買できるという意味ではありません。それらを含む事業が、どの程度の収益を継続して生むかという観点で評価します。
たとえば、優秀な従業員が会社の競争力を支えていても、従業員本人が担保になるわけではありません。また、契約上の地位が総財産に含まれるとしても、契約の相手方が担保設定によって自由を失うわけではありません。〔出典:2・6〕
特定の部門だけを切り出して設定する制度ではない
原則となる対象単位は、設定する会社の総財産です。「A事業だけを対象にし、同じ会社のB事業は対象外にする」という個別部門への担保設定とは異なります。
複数の事業を営む会社では、成長事業と既存事業の両方を含めた影響を確認する必要があります。事業を別会社で運営する場合には、その別会社が設定主体となる構成を検討できますが、会社分割・資産移転・税務などの検討が別途必要です。
グループ会社の資産も、親会社の担保設定だけで自動的に取り込まれるものではありません。担保を設定する会社の保有株式と、子会社自身の総財産は分けて考えます。
社長個人の財産は会社の総財産に含まれない
会社名義の資産と、経営者個人名義の自宅・預金などは別です。会社が企業価値担保権を設定するだけで、社長の個人資産が会社の担保に組み込まれるわけではありません。
ただし、個人保証・個人所有資産の担保設定が別に存在する場合は、それぞれの契約と法第12条の適用範囲を確認します。会社と個人の資金移動が不明瞭な場合には、まず会計・資金管理を整理する必要があります。〔出典:2・7〕
4.信託を使う仕組みと金融機関の役割
借り手・担保を管理する者・貸し手の関係
企業価値担保権は、企業価値担保権信託契約によって設定します。基本となる役割は次のとおりです。
| 役割 | 主な担い手 | 内容 |
|---|---|---|
| 委託者・債務者 | 資金を借りる会社 | 信託契約を締結し、自社の総財産に担保権を設定する |
| 受託者・担保権者 | 企業価値担保権信託会社等 | 担保権を管理し、必要な説明や実行時の対応等を担う |
| 特定の受益者・貸し手 | 融資を行う金融機関等 | 融資債権などを保有し、信託の受益者となる |
| 不特定の受益者 | 法律上の不特定被担保債権者 | 実行時の留保額に関する保護を受ける |
ここで信託を使う対象は担保権等です。通常の融資開始時に、会社の工場や預金の所有権をすべて銀行に移す仕組みではありません。 担保設定後も、会社は通常の営業を続けます。〔出典:2・10・11〕
外部の信託銀行への依頼が必ず必要になるわけではない
企業価値担保権に関する信託業務には免許制度があり、金融機関等については法律上のみなし免許等の仕組みも設けられています。
要件を満たす銀行などが、融資を行う役割と担保権を管理する役割を兼ねることも想定されています。借り手が必ず外部の信託銀行を探し、別の窓口と交渉しなければならないわけではありません。
ただし、取扱体制や費用は金融機関によって異なります。相談時には「融資と信託の窓口は誰か」「信託報酬は何に対して発生するか」を確認すると、手続を理解しやすくなります。〔出典:4・21〕
5.どのような企業が利用できるか
制度上の対象と、融資審査上の適性を分けて考える
制度の対象となるのは、会社法上の会社です。株式会社のほか、合同会社・合名会社・合資会社などが含まれます。特例有限会社も対象に含まれます。
一方、個人事業主、一般社団法人、NPO法人、医療法人などは、会社法上の会社ではないため、その法人・個人のままでは企業価値担保権を設定できません。これらの主体に対して、事業性を評価した通常の融資ができないという意味ではありません。
また、企業価値担保権自体は、中小企業だけに対象を限定した補助制度ではありません。中堅企業や大企業でも、制度と金融機関の取扱条件に適合すれば検討対象になります。〔出典:2・8〕
検討しやすい企業・準備を優先したい企業
以下は、制度の特徴を踏まえた実務上の整理です。
| 検討しやすい状況 | 検討の前に整えたい状況 |
|---|---|
| 顧客との継続取引があり、売上の見通しを説明できる | 売上予測が希望的な数字だけで、裏付けがない |
| 設備投資や採用が利益・資金回収にどうつながるか分かる | 資金使途と収益改善のつながりが不明確 |
| 月次の売上・利益・資金繰りを把握している | 決算時まで業績を把握できない |
| 既存借入と担保・保証の状況を一覧化できる | 借入や関連会社取引の全体像が整理されていない |
| 経営者が課題や計画未達を早めに共有できる | 不都合な情報を後回しにする傾向がある |
| 主力行と中長期の資金計画を相談できる | 複数行の契約が複雑で、追加借入の調整が難しい |
赤字企業・スタートアップでも使えるのか
現在赤字であることだけを理由に、制度上の対象外になるわけではありません。金融庁は、スタートアップの成長資金などを活用場面に挙げています。
ただし、赤字企業への融資には、赤字が続く期間の資金をどう確保するか、どの時点から返済原資が生まれるかという説明が必要です。増資の予定がある場合も、出資者の関心と、資金の払込みが確定していることは区別します。
赤字でも事業の将来性を評価できることと、返済の見通しがないまま借りられることは別です。 収益化まで長い事業では、借入と出資の組合せを検討することが適切な場合があります。〔出典:3〕
6.企業価値担保権付き融資のメリット
事業の強みを資金調達の説明に反映しやすい
不動産を多く保有しない会社でも、継続収益、独自技術、取引基盤などを踏まえて成長資金を検討できます。帳簿上の純資産が、会社の競争力のすべてを表すわけではないためです。
たとえば、長期の保守契約を持つ会社では、機械設備の処分価値より、保守料収入の安定性が返済原資として重要な場合があります。企業価値担保権は、そのような事業理解に基づく融資を後押しします。
経営者保証への依存を抑えやすい
対象となる債権について、個人保証等に基づく権利行使を制限する法律上の仕組みがあります。事業承継時に後継者が保証負担を懸念する場面や、成長投資に伴う家計への影響を整理したい場面で検討する意義があります。
もっとも、既存のすべての保証が自動解除されるわけではないため、借入単位での確認が必要です。
成長段階に応じた資金計画を相談しやすい
最初の設備投資だけでなく、稼働後の増産に必要な運転資金、追加採用、次の成長投資まで含めて相談することが考えられます。担保される債権の範囲や極度額は、こうした将来の資金需要と合わせて設計します。
融資後の支援を受ける基盤になる
事業の状況を継続して共有することで、金融機関が売上の変化や資金不足の兆候を把握しやすくなります。早い段階で改善策や資金対応を話し合えれば、選べる対応策を残せる可能性があります。
ただし、担保権を設定しただけで、追加融資や経営支援が無条件に約束されるわけではありません。担当者、報告頻度、相談時の対応も確認しておきます。
出資と組み合わせ、持分の希薄化を調整できる
資金需要のすべてを増資で賄わず、一部を借入にすることで、持分の希薄化を抑えられる場合があります。ただし、新株予約権付き融資などを選べば、将来の希薄化が生じる可能性があります。借入元本・利息の返済負担との比較も必要です。
これらは制度によって期待される効果であり、各社が必ず得られる成果ではありません。〔出典:2・3・5・17〕
7.デメリット・リスク――契約前に理解すべき6点
1.会社全体に影響する担保になる
対象は特定の設備だけではありません。通常の営業を続けられる一方で、会社の総財産を担保にすることが、将来の資金調達や事業譲渡に関わります。
必要資金が小さく、通常の無担保融資で十分対応できる場合などには、手続や管理負担に見合うかを比較する必要があります。
2.重要な資産処分などに同意が必要になる
法第20条は、通常の事業活動を超える重要な財産の処分、事業の全部または重要な一部の譲渡などについて、企業価値担保権者の同意を求めています。
日々の販売・仕入れまで一律に止まる制度ではありませんが、「重要な資産」「通常の事業活動」の範囲を、自社の事業に即して確認することが大切です。法定の同意が必要な行為と、融資契約上の事前相談・同意事項も区別します。
3.金融機関との関係が深まり、調整負担も生じる
取引を主力行などに集約すれば相談は進めやすくなりますが、その金融機関の判断に依存する度合いも高まります。他行からの追加借入や借換えについて、事前同意、担保順位、手数料などを確認しておく必要があります。
4.定期的な情報提供が必要になる
月次試算表、資金繰り、主要顧客の変化、投資の進捗などの共有が求められる場合があります。資料の種類や頻度は契約によります。
決算書を年に1回提出する運用から変わる場合には、経理担当者の負荷と、経営者が説明できる体制を見積もります。
5.金利以外の費用がかかる
登記費用、信託報酬、契約関係の費用、借換え費用、必要に応じた専門家費用などを含めて比較します。金利だけが低くても、総額で有利とは限りません。
6.実行手続に進めば、経営権限を失う可能性がある
企業価値担保権の実行手続が開始すると、事業経営や担保目的財産の管理・処分の権限は、裁判所が選任した管財人に移ります。事業譲渡によって事業を残す場合でも、従来の経営者がそのまま経営を続けられるとは限りません。
事業の存続と、現在の会社・株主・経営者の地位の維持は、同じ結果を意味しません。 この違いは契約前に理解しておく必要があります。〔出典:2・5・11・15〕
8.経営者保証は不要になる?原則・例外・既存保証を整理
原則:対象債権の個人保証等について権利行使を制限
法第12条は、企業価値担保権によって担保される特定被担保債権について、個人保証契約などに基づく権利行使を制限しています。
対象には、個人の保証に加え、個人が生活の本拠として使用する不動産等を担保にする一定の契約なども含まれます。生活用の自動車等についても、関係命令で範囲が定められています。
厳密には、単に「保証契約を締結してはいけない」とだけ定めた仕組みではありません。どの債権について、どの契約に基づく権利行使が制限されるかを見る必要があります。〔出典:2・7〕
例外:情報開示義務違反等を条件とする保証
制度は、誠実な経営や情報開示を前提としています。一定の要件の下で、情報開示義務違反や、合意した事業・財産の毀損行為などに対応する個人保証等が認められる場合があります。
たとえば、虚偽報告などを条件に保証責任が発生する構成や、合意した誠実な業務執行に関する要件を満たす場合に保証責任が解除される構成が、法令上整理されています。
ただし、契約条件、保証人の地位、義務違反の内容などの要件があります。「売上目標を達成できなかっただけで必ず個人保証が復活する」「粉飾以外なら一切責任を負わない」といった説明は正確ではありません。
契約書では、少なくとも次の点を確認します。
- どのような情報を、いつ、どの方法で提出する義務があるか。
- どのような行為が保証責任に関係する条件となっているか。
- 誤りを把握した場合の訂正・報告手続はどうなっているか。
- 保証の限度、解除条件、経営者交代時の扱いはどうなっているか。
〔出典:7、第2条〕
既存借入の保証は、自動的にすべて消えるわけではない
たとえば、新規融資だけを企業価値担保権の対象にし、既存の保証付き融資を対象外として残す場合があります。その既存融資について、従来の個人保証が残る可能性があります。
経営者保証の整理を目的とするなら、融資額だけでなく、どの借入を対象に含めるか、既存保証は解除するか、借換えを行うかまで確認する必要があります。〔出典:8〕
9.金融機関は何を審査するのか
中心となるのは事業の実態と返済可能性
「企業価値」という言葉から、第三者に高額な企業価値評価書を作成してもらう制度だと考えるかもしれません。しかし、金融庁のFAQでは、融資時の担保価値の算定は不要と整理しています。
これは、審査を行わないという意味ではありません。金融機関は、事業の仕組み、将来のキャッシュフロー、見通しが変わるリスクなどを踏まえ、返済可能性を判断します。
DCF法などによる評価が個別案件で役立つことはありますが、法定の企業価値評価書を提出すれば融資枠が決まる制度ではありません。〔出典:4・5〕
審査への準備に使える7つの視点
以下は、経営者が説明を準備するための整理例です。
| 視点 | 金融機関に説明したいこと | 裏付け資料の例 |
|---|---|---|
| 顧客・需要 | 誰が、なぜ、どの程度継続して買うか | 契約、受注残、継続率、顧客別売上 |
| 競争力 | 価格・品質・納期などで選ばれる理由 | 他社比較、技術資料、品質実績 |
| 収益構造 | 売上が利益になる仕組み | 部門別損益、粗利率、固定費、原価内訳 |
| 資金回収 | 売上計上から入金までの期間 | 売掛金の年齢表、支払条件、在庫回転 |
| 投資効果 | 投資により何がどれだけ改善するか | 設備見積、能力増強、受注見込み、工程表 |
| 経営体制 | 計画を実行し、数値を管理できるか | 担当責任者、会議体、月次管理資料 |
| 下振れ対応 | 計画が外れたときにどう資金を守るか | 感応度分析、投資延期案、支出削減案 |
業種によって重要な指標は異なる
製造業では稼働率や不良率、サービス業では人員の稼働と継続顧客、SaaSでは契約継続と顧客獲得費などが、事業理解に役立つ場合があります。
| 業種・事業モデル | 把握したい指標の例 |
|---|---|
| 製造業 | 受注残、設備稼働率、製品別粗利、歩留まり、顧客集中度 |
| 卸売・小売 | 在庫回転、値引率、粗利率、回収・支払サイト |
| 飲食・宿泊 | 客数、客単価、稼働率、リピート、人件費・固定費 |
| SaaS・継続課金 | 継続売上、解約率、契約更新、顧客獲得費と回収期間 |
| 受託サービス | 受注見込み、案件粗利、稼働率、外注依存、入金条件 |
重要なのは指標の数を増やすことではなく、返済原資の増減を説明できる指標を選ぶことです。実際に求められる資料や基準は、金融機関との協議で決まります。
「企業価値=一般担保評価額」にはならない
金融庁は、企業価値そのものを、不動産などと同じ意味での「一般担保」として扱えないとしています。一方、総財産の中に一般担保の要件を満たす不動産や債権等があれば、その価値を考慮できると整理しています。
金融機関には、この制度による優先関係や継続支援の機能も踏まえ、信用リスクを評価することが求められます。企業側としては、「企業価値が3億円だから3億円借りられる」という発想を避け、資金使途と返済計画を示すことが大切です。〔出典:16〕
10.融資額・金利・返済期間・費用はどう決まるか
全国共通の融資上限額や適用金利はない
企業価値担保権は担保制度であり、国が一律に融資額・金利・返済期間を設定している融資商品ではありません。金融機関の取扱方針と個別審査によって条件が決まります。
| 条件 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 融資額 | 必要資金、返済原資、既存債務、追加調達余力 |
| 金利 | 固定・変動、基準金利、上乗せ幅、見直し条件 |
| 返済期間 | 投資回収の期間、借入の目的、将来収益の確度 |
| 元本据置 | 立上げ期間中に元本返済を据え置けるか |
| 返済方法 | 分割返済、期日一括、返済開始時期、最終回の負担 |
| 追加融資 | 新たな審査が必要か、融資枠の約束があるか |
| 繰上返済・借換え | 手数料、違約金、通知期間、担保抹消の手続 |
金融機関が取扱開始を公表していても、公開資料に金利や上限額が記載されていなければ、その資料から条件を推定することはできません。山口フィナンシャルグループも、詳細条件は個別に案内するとしています。〔出典:18・19〕
登記・信託などの費用を含めて比較する
| 費用 | 内容・確認のポイント |
|---|---|
| 設定登記の登録免許税 | 企業価値担保権1件につき3万円 |
| 信託契約書の印紙税 | 公表書式例を前提とした紙の信託契約書は200円。実際の記載内容で判定 |
| 融資契約等の印紙税 | 信託契約とは別に、文書の内容や作成方法等によって判断 |
| 信託報酬 | 初期・継続・変更・終了など、発生時点と算定方法を確認 |
| 融資関係手数料 | 組成手数料、融資枠に関する手数料などの有無を確認 |
| 専門家費用 | 必要に応じた登記、契約確認、財務分析、事業計画等の費用 |
| 借換え関係費用 | 既存融資の繰上返済、新旧担保の手続等に伴う費用 |
登録免許税は、不動産の抵当権設定と同じ計算をそのまま当てはめないようにします。また、信託契約書の印紙税が200円だからといって、融資契約を含むすべての契約書が200円になるわけではありません。
金融庁が公表した貸付特約書の書式例については、一定の前提の下で第1号の3文書・第7号文書に該当しないとの整理もありますが、実際の内容による個別判断です。〔出典:11・12〕
極度額は「融資を受けられる上限枠」とは異なる
極度額は、担保権によって担保する金額の上限です。企業価値担保権では、その設定は必須ではなく、債務者から請求して設定する仕組みがあります。ただし、現存する債務や将来の一定期間の利息等を踏まえた法定の下限があります。
極度額を1億円としたとしても、銀行が1億円を必ず貸す義務を負うわけではありません。担保される債権の範囲、極度額、実際の貸付額、融資枠の約束はそれぞれ区別して確認します。〔出典:2、第9条〕
11.既存借入・他行融資・信用保証付き融資と併用できるか
既存借入をすべて借り換えることは一律の法定要件ではない
企業価値担保権の活用では、主力行や金融機関団に借入を集約し、必要に応じて既存融資を借り換える方法が想定されています。負債構造を整理すると、追加融資や経営改善に関する調整を進めやすいためです。
ただし、すべての既存借入を必ず借り換えなければならない、という一律の制度ではありません。金融庁・中小企業庁の資料でも、信用保証付き融資を企業価値担保権の対象債権から除外して併用する例が示されています。
実務では、「残せるか」だけでなく、既存契約が新しい担保設定を許容しているか、他の貸し手の回収見込みにどう影響するかまで確認します。〔出典:3・8〕
既存の抵当権等との優先関係
企業価値担保権を設定しても、すでに適切に設定・対抗要件を備えた他行の抵当権などが、当然に後順位へ移るわけではありません。
抵当権・質権などとの競合は、原則として、対抗要件を備えた時点と企業価値担保権の登記の前後等によって整理されます。担保権付きの財産を後から取得した場合などには別の規律もあります。
また、企業価値担保権者は、事業の継続を妨げる個別の強制執行等に異議を主張できる場合があります。これは、他の貸し手の債権や優先順位が自動的に消えるという意味ではありません。〔出典:2、第18・19条〕
同じ債権に重ねて設定した個別担保の扱い
同じ特定被担保債権について、企業価値担保権に加えて会社の不動産等に個別担保を設定している場合、法第11条による「重複担保権」の実行禁止が問題になります。
同じ銀行の融資であっても、どの債権をどの担保が支えているかによって整理が変わります。融資・担保・保証を別々の表にするだけでなく、対応関係まで記載しておくことが有用です。〔出典:2、第11条〕
信用保証付き融資との併用は可能。ただし事前調整が必要
2026年5月の金融庁・中小企業庁資料は、信用保証制度との併用を前提に留意事項を整理しています。
| 既存融資などの状況 | 基本となる確認・対応 |
|---|---|
| 無担保が前提の信用保証付き融資 | 企業価値担保権の特定被担保債権から除外する対応が必要 |
| 保証協会の求償債務に個人保証等が付いている | 対象債権からの除外、または協会の了解を得た保証等の解除を検討 |
| 金融機関自身も対象債権の個人保証を取得している | 法第12条との関係で保証解除等の整理が必要 |
| 企業価値担保権の設定後に新たに信用保証を利用する | 金融機関が「将来性展望シート」を提出するなどの手続を確認 |
| 保証付き融資を対象債権から除外して残す | 信託契約における除外の記載や、その後の追加・変更を管理 |
保証協会の保証は、金融機関への返済を保証する仕組みです。保証協会が代位弁済しても、借り手の返済義務がなくなるわけではありません。
また、個人保証等の条件が法第12条に抵触すると、金融機関が保証協会に代位弁済を請求できない場合があります。これは主として金融機関側の手続上の論点ですが、借り手にとっても契約の組み方を左右します。
借り手が独断で「この融資は除外したつもり」と考えるだけでは不十分です。金融機関から保証協会に事前相談してもらい、契約書の内容に反映させます。〔出典:8〕
複数の銀行からの借入も可能
企業価値担保権は、複数の貸し手が同順位などで関与する構成も可能です。金融庁のFAQでは、一つの金融機関団、いわゆるシンジケートによる融資が基本的な想定として示されています。
複数行の場合は、追加融資、返済条件変更、担保処分、借換えなどを誰が判断するかが重要です。全行の同意が必要なのか、一定割合の貸し手で決められるのかを確認します。〔出典:4〕
12.相談から融資実行までの流れ
以下は一般的な進め方の整理です。個別案件では並行して進む手続や、順序が前後する手続もあります。
| 段階 | 会社が行うこと | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 1.資金需要の整理 | 何に、いくら、いつ必要かを示す | 設備資金・運転資金・借換資金の内訳 |
| 2.金融機関への事前相談 | 事業概要、決算、借入一覧を共有する | 取扱可否、窓口、審査の進め方 |
| 3.事業と財務の確認 | 受注、収益、投資効果、資金繰りを説明する | 返済原資と下振れリスク |
| 4.既存債権者との調整 | 借換え・既存担保・保証の対応を整理する | 他行、保証協会、関連会社等との関係 |
| 5.条件の協議 | 金額、金利、期間、報告義務などを検討する | 信託報酬、極度額、同意事項、解除条件 |
| 6.社内決議と契約 | 必要な機関決定を行い、説明を受けて契約する | 融資契約、信託契約、特約等の整合性 |
| 7.登記・実行条件の充足 | 登記などの実行条件を満たす | 登記事項、既存保証の解除、必要書類 |
| 8.融資実行・期中管理 | 資金を使い、計画と実績を共有する | 資金使途、KPI、資金繰り、課題への対応 |
社内手続と登記は省略できない
法第10条では、会社の機関設計に応じた決定・決議を求めています。たとえば、一般的な取締役会設置会社では取締役会決議が基本となりますが、会社形態や定款によって確認すべき内容が異なります。
また、企業価値担保権は、原則として商業登記簿に登記しなければ効力を生じません。「契約書だけを交わして終わり」ではない点に注意が必要です。登記の申請方法や様式は法務局から公表されています。〔出典:2、第10・15条/13〕
制度利用に共通の審査日数は決まっていない
新規の事業理解、既存融資の借換え、保証協会との調整、複数行との契約などが必要になると、準備期間は長くなります。
資金が不足する直前に初めて相談するより、投資や事業承継の計画を立てる段階で相談を始める方が、条件を比較しやすくなります。具体的な日程は金融機関に確認し、融資決定前の発注・支払と資金手当の順序を管理します。
13.準備しておきたい資料一覧
以下は金融機関との相談に備えるための資料例です。法令がすべての借り手に一律提出を求めている書類の一覧ではありません。 必要範囲は会社の規模、資金使途、既存取引によって調整します。
| 分類 | 資料の例 | 確認できること |
|---|---|---|
| 基本情報 | 会社概要、登記事項、定款、株主・グループ構成 | 誰が借り、誰が経営する会社か |
| 過去の財務 | 直近数期の決算書・税務申告書・勘定科目内訳 | 収益、資産負債、特殊要因の推移 |
| 足元の業績 | 月次試算表、部門別損益、予算実績比較 | 現在の業況と変化 |
| 資金繰り | 月次資金繰り表、預金残高、入出金予定 | 支払時期と資金不足の時点 |
| 借入 | 金融機関別の残高、利率、返済予定、融資枠 | 既存借入を含む返済負担 |
| 担保・保証 | 担保、個人保証、協会保証、関連会社保証の一覧 | 新たな設定に伴う調整の必要性 |
| 売上の裏付け | 受注残、契約書、継続率、顧客別・商品別売上 | 将来売上の確度と集中リスク |
| 投資計画 | 見積書、発注・支払日程、設備稼働計画 | 必要資金の額と使途 |
| 競争力 | 技術・知財の資料、品質・納期実績、比較資料 | 収益を維持できる根拠 |
| 契約・権利関係 | 主要契約、賃貸借、ライセンス、許認可の情報 | 事業継続や譲渡に関わる条件 |
| 経営体制 | 組織図、責任者、採用計画、承継計画 | 計画を実行できる体制 |
| 将来計画 | 事業計画、損益・資金繰り見通し、下振れケース | 投資回収、返済余力、対応策 |
初回相談では、まず5点をそろえる
最初から大量の資料を作り込む必要はありません。事前相談では、次の5点があると論点を絞りやすくなります。
- 会社の事業と強みが分かる概要。
- 直近決算と足元の月次業績。
- 借入・担保・保証の一覧。
- 資金使途、必要額、必要時期。
- 投資後の売上・利益・資金繰りの見通し。
そのうえで、金融機関が事業を理解するために追加で必要な資料を確認します。重要なのは、見栄えのよい資料を増やすことより、数字がつながり、経営者が説明できる状態にすることです。
14.事業計画書に盛り込みたい内容
事業計画書は、自社の将来像を金融機関と共有するための道具です。以下の順序でまとめると、資金需要と返済のつながりを説明しやすくなります。
1.現在の事業と、解決する経営課題
誰に、何を、どのように提供しているかを説明します。そのうえで、生産能力不足、納期、営業人員、承継など、今回の資金調達で解決する課題を特定します。
「市場が伸びるから投資する」だけで終わらせず、自社が需要を獲得できる理由まで示します。
2.顧客に選ばれる理由と、その証拠
品質や技術力を強みとするなら、不良率、採用実績、認証、他社との違いなどで補強します。顧客基盤が強みなら、継続率、取引年数、契約期間、顧客別売上などを示します。
「高い技術力」「強固な顧客基盤」という言葉だけでは、融資判断に必要な具体性が不足します。
3.資金使途と実行スケジュール
設備代金だけでなく、工事、導入、採用・教育、在庫増加、稼働までの赤字なども含めて資金需要を整理します。
同じ1億円の投資でも、初日に全額が必要な場合と、1年間で段階的に支払う場合では、調達方法や金利負担が変わります。
4.売上・利益・キャッシュフローの見通し
売上は、顧客数×単価、設備能力×稼働率など、自社の事業構造に合わせて説明します。利益の計画だけでなく、入金・支払の時期を反映した資金繰りを作成します。
計画期間は投資回収や借入期間に合わせます。たとえば、中期の年次計画と、直近1年間の月次資金繰りを組み合わせる方法がありますが、期間は全国共通の法定要件ではありません。
5.既存借入を含めた返済計画
新しい借入だけ返せても、既存借入の返済が重ければ資金繰りは悪化します。返済予定は金融機関横断でまとめ、元本据置の終了月や一括返済期日も反映します。
6.計画が下振れした場合の対応
売上減少、採用遅延、原材料高、設備稼働の遅れ、回収期間の長期化などを検討します。その際は、利益への影響と、資金不足の発生時期を分けて確認します。
対応策も「営業を頑張る」で終わらせず、採用の段階実施、投資の延期、在庫圧縮、価格改定などの具体策に落とします。
7.誰が、どの指標を、いつ確認するか
経営者・経理責任者・事業責任者の役割を決めます。月次で確認する指標と、計画を修正する判断基準を定めると、融資後の情報共有にもつながります。
金融庁の基本的な考え方も、計画書の形式より、行動と見通しの関係、想定が外れた場合の備え、見通しを支える情報の共有を重視しています。〔出典:5〕
15.数字で理解する返済余力――資金繰りとDSCRの計算例
以下は説明用の仮想例です。実際の融資事例、金融機関の金利水準、審査合格基準を示すものではありません。
製造業が設備・運転資金として1億円を検討する例
ある製造業が、新設備8,000万円と立上げ時の運転資金2,000万円、合計1億円の投資を検討しているとします。
投資後の通常稼働年度について、返済に回せる年間キャッシュフローを次のように簡便計算します。単位は万円です。
| 項目 | 基本ケース | 下振れケース | 大きな下振れ |
|---|---|---|---|
| EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益) | 3,600 | 2,800 | 2,200 |
| 現金支出となる税金 | ▲600 | ▲400 | ▲300 |
| 維持更新に必要な設備投資 | ▲400 | ▲400 | ▲400 |
| 運転資金の追加増加 | ▲200 | ▲200 | ▲300 |
| 返済前のキャッシュフロー | 2,400 | 1,800 | 1,200 |
| 既存・新規借入を合わせた年間元利返済額 | 1,800 | 1,800 | 1,800 |
| DSCR | 1.33倍 | 1.00倍 | 0.67倍 |
| 返済後の年間資金増減 | +600 | 0 | ▲600 |
DSCR=返済に充てられるキャッシュフロー÷元利返済額です。ここでは、投資により通常稼働に入った年度の簡便計算として用いています。新規借入1億円の返済年数や金利から1,800万円を逆算したものではなく、既存借入を含む年間返済額として仮定しています。
基本ケースでは年間600万円が残る一方、下振れケースでは返済後に資金が残りません。さらに悪化すると、年間600万円の不足が生じます。
この比較から、「基本ケースなら返せる」というだけでなく、下振れ時には、返済期間、元本据置、自己資金、投資規模、追加調達などを再検討する必要があると分かります。
計算時に注意したいこと
- DSCRの定義・調整項目・必要水準は契約や金融機関によって異なり、制度共通の最低倍率が定められているわけではありません。
- EBITDAは現金残高ではありません。税金、運転資金、設備投資などの支出を別に確認します。
- 初期投資1億円の支払いや立上げ期間の資金繰りは、この通常稼働年度の表とは別に管理します。
- リース料などは、損益で費用計上した部分と元利返済側に含める部分の二重計上を避けます。
- 年間で黒字でも、入金より先に支払が来れば資金不足になります。月別の残高確認も必要です。
「売上が増えるほど資金が必要になる」場合もある
たとえば、月間売上が2,000万円から3,000万円に増え、売掛金の回収まで2か月かかる場合、単純化すれば売掛金は4,000万円から6,000万円に増えます。差額2,000万円は、入金まで会社が立て替える資金です。
実際の運転資金は、在庫や買掛金の増減も合わせて計算します。設備の増設だけでなく、増産後の運転資金まで資金計画に含めることが重要です。
16.コベナンツとは?融資後の約束事をどう設計するか
コベナンツとは、融資契約等に設ける約束事です。財務指標の維持だけでなく、情報提供や重要事項の事前相談なども含まれます。
企業価値担保権付き融資では、事業の将来像と実績のずれを把握し、必要な対応を早めに協議するために活用することが考えられます。〔出典:9・10〕
| 項目 | 契約に盛り込まれる内容の例 | 借り手が確認したいこと |
|---|---|---|
| 定期報告 | 月次試算表、資金繰り、KPIの提出 | 頻度、期限、提出形式、担当者 |
| 重要事象の報告 | 主要顧客の解約、事故、訴訟、許認可の変化 | 何を重要とするか、報告期限 |
| 資金使途 | 計画した投資・運転資金への使用 | 使途変更時の協議方法 |
| 財務条件 | 利益、純資産、借入負担等の指標 | 計算定義、一時損失、判定時期 |
| 追加借入・担保 | 他行借入、新たな担保設定の事前相談等 | 通常取引の範囲や例外 |
| 資産処分・事業再編 | 重要資産売却、事業譲渡等の同意 | 金額基準、事業計画との関係 |
| 株主等への資金移動 | 配当、役員貸付、関連会社取引等 | 許容範囲と決裁手続 |
| 抵触時の対応 | 協議、改善策、是正期間等 | 即時返済となる場合との区別 |
指標に抵触したら、必ず即時返済になるわけではない
金融庁は、コベナンツの抵触が直ちに債権回収につながるものではないという考え方を示しています。早期の対話を始めるための条件として使う場合もあります。
ただし、実際の法的効果は契約書の定めによります。 自動的に期限の利益を失う条項なのか、通知や協議を経る条項なのか、是正期間があるかを確認しなければなりません。
「金融庁が対話を重視しているから返済請求されない」と思い込むことも、「一度でも未達なら終わり」と考えることも適切ではありません。契約上の効果と、担当者との運用認識を合わせておきます。〔出典:5〕
月次の情報共有は、少数の項目から始める
実務上は、資料を大量に出すより、次の内容を継続して共有できることが有用です。
- 計画と実績の差。
- 差が生じた理由。
- 今後の資金残高の見通し。
- 会社が実行する対応策。
- 金融機関に相談したい事項。
悪い情報を早めに共有できる状態をつくることは、借り手自身が資金不足の発生を早く把握することにもつながります。
17.どのような場面で活用できるか――5つの想定例
以下は、制度の特徴を踏まえた仮想の活用例です。実在企業の融資実績を紹介するものではありません。
製造業:設備投資と増産後の運転資金
土地・建物の担保余力が少なくても、受注の見込みや生産能力の制約が明確で、設備投資が利益増加につながる場合には検討余地があります。
計画では、設備能力、稼働率、歩留まり、原価、主要顧客の発注見込みを確認します。増産に伴う原材料・在庫・売掛金の増加も資金需要に含めます。
サービス業:顧客基盤を生かした拠点拡大
設備資産が少ない企業でも、継続契約や高い再利用率などが収益の安定性を支えている場合があります。既存拠点の利益をもとに、新拠点の採用・立上げ費用を検討する方法が考えられます。
ただし、人員採用が遅れた場合や、新拠点の黒字化が遅れた場合の資金繰りを見ておく必要があります。
スタートアップ:出資と借入を組み合わせる
研究開発や市場開拓を出資で支え、継続収益が見込める部分の拡大資金を借入で調達する、といった組合せが考えられます。
受注・契約更新・収益化の確度、残存資金で事業を継続できる期間、次回調達の条件などを検討します。次の増資が実現しなければ返済できない構造では、その不確実性を明確に示す必要があります。
事業承継・M&A:承継後の事業計画と資金需要を一体化
後継者の保証負担を整理する場面や、M&A後の設備更新・運転資金・組織統合に対応する場面で検討できます。
事業承継では、代表者交代だけでなく、主要顧客との関係や技術・営業の引継ぎが返済原資を維持するうえで重要です。M&Aでは、買収価格に加え、引継ぎ費用や統合後の資金需要も計画します。
なお、法第13条は、他人の債務を担保するための企業価値担保権の設定を禁止しています。買収会社と対象会社が異なる場合、借り手、担保設定者、返済原資の関係を丁寧に設計する必要があります。〔出典:2・3〕
事業再生:将来の事業価値を維持するための資金
収益力のある事業が残っていても、過去の債務や一時的な資金不足が経営を圧迫している場合があります。事業を理解する金融機関と改善計画を共有し、必要な運転資金を確保する選択肢として検討することが考えられます。
ただし、新しい担保制度だけで債務超過や過剰債務が解消するわけではありません。既存債権者との調整、スポンサー支援、再生手続などを含めて判断します。〔出典:3・17〕
補助金と組み合わせる場合の確認点
補助金と借入は役割が異なります。借入で立替資金を賄い、補助金の入金後に一部を返済する計画などを検討する場合には、入金時期、金額確定、つなぎ期間を資金繰りに反映します。
また、補助金で取得した財産には、担保設定・譲渡などに関する処分制限が付く場合があります。たとえば、事業再構築補助金では、担保に供する処分を財産処分として扱っています。
企業価値担保権への具体的な適用は、利用した補助金の交付規程・承認基準等と照合し、所管・事務局に確認する必要があります。 銀行側が融資可能と判断しても、それだけで補助金側の条件を満たすとはいえません。〔出典:22〕
18.返済が難しくなった場合、会社はどうなるか
まずは早期の対話・改善対応を検討する
売上減少や資金繰り悪化が生じた際には、早めに金融機関へ状況を共有します。計画修正、追加資金、返済条件の見直し、外部支援などを検討するためです。
企業価値担保権は、このような継続支援を後押しする制度ですが、支援や条件変更が必ず認められるわけではありません。対応が難しく、法定の要件を満たして実行手続に進む場合もあります。〔出典:5〕
実行手続では、裁判所と管財人が関与する
実行に至った場合の大まかな流れは次のとおりです。個別事件の経過は、会社や債権者の状況によって異なります。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 申立て | 企業価値担保権の実行について裁判所に申し立てる |
| 開始決定等 | 裁判所が要件を判断し、管財人を選任する |
| 事業・財産の管理 | 管財人が事業経営と担保目的財産の管理等を担う |
| 譲渡先等の検討 | 事業の価値を維持できる方法を検討する |
| 事業譲渡等 | 裁判所の許可等を得て、必要な承継手続を進める |
| 配当等 | 法定の優先関係・留保額等に従って処理する |
基本的には、事業をばらばらにして価値を失わせることを避け、事業譲渡を通じて引き継ぐことが想定されています。
ただし、譲渡先が見つかること、すべての雇用が維持されること、元の会社がそのまま存続することを保証する制度ではありません。会社の状態によっては、事業を継続できない場合もあります。〔出典:2・15〕
既存の倒産・再生手続との関係もある
企業価値担保権の実行手続と、破産・民事再生・会社更生などの手続は区別する必要があります。法律は、これらの手続での企業価値担保権の扱いも定めています。
たとえば、破産法・民事再生法・会社更生法の適用上、企業価値担保権を抵当権とみなす規定があります。ただし、各手続での権利行使、停止、配当などは一律ではありません。
実際に返済が難しくなった場面では、資金残高と資金不足の時期を把握し、金融機関・再生実務の専門家に早めに相談することが重要です。〔出典:2、第227〜230条〕
19.従業員・取引先はどう保護されるか
担保設定だけで雇用主や労働条件は変わらない
企業価値担保権の設定自体によって、従業員の雇用主や労働条件が変わるわけではありません。
実行手続で事業譲渡を行う場合も、労働契約の承継には個々の労働者の承諾が必要です。契約の相手方の同意が必要になる点は、労働契約以外の事業上の契約にも関わります。
2026年5月25日から適用された改正事業譲渡等指針では、企業価値担保権の実行時の労働者への情報提供や協議等も整理されています。〔出典:6・15〕
給料などには優先弁済の仕組みがある
法第129条では、実行手続開始前6か月間の給料の請求権などを共益債権としています。一定の退職手当についても、法定の範囲で共益債権として扱われます。
共益債権は、配当債権に先立って弁済する仕組みです。ただし、会社に必要な資金がなければ、優先順位があることと全額回収できることは一致しません。
取引先への支払も、事業継続に必要な支払の扱いや個々の債権の性質によって整理されます。「仕入先の請求はすべて銀行より優先する」「銀行がすべて先に回収する」という単純な関係ではありません。〔出典:2、第127〜131条〕
一般債権者のための「不特定被担保債権留保額」
実行時に金融機関だけへ配当を集中させないため、一定額を留保する仕組みがあります。不特定被担保債権者のために、清算・破産手続の公正な実施等を支える金額です。
施行令第2条の計算では、配当可能額を以下の区分に分け、それぞれの部分に率を掛けて合計します。
| 配当可能額の区分 | その区分の金額に適用する率 |
|---|---|
| 500万円以下の部分 | 30% |
| 500万円超〜1,000万円以下の部分 | 15% |
| 1,000万円超〜5,000万円以下の部分 | 5% |
| 5,000万円超〜1億円以下の部分 | 1.5% |
| 1億円超〜5億円以下の部分 | 0.3% |
| 5億円を超える部分 | 0.05% |
計算額が70万円を下回る場合は、70万円とされます。また、裁判所が特に必要と認める場合の加算について、法律に定めがあります。
たとえば、配当可能額が1億円の場合、150万円+75万円+200万円+75万円=500万円です。1億円全体に1.5%を掛ける計算ではありません。
ここでいう配当可能額は、融資額、会社の帳簿上の総資産、事業売却額と同義ではありません。また、この留保額だけで一般債権者の債権が全額保証されるわけでもありません。〔出典:2、第8・166条/14、第2条〕
20.中小企業診断士・専門家に依頼できること
企業価値担保権の利用で重要なのは、制度の説明だけでなく、自社の事業と資金計画を実行可能な形にすることです。中小企業診断士などの経営支援者は、次の領域で支援することが考えられます。
| 支援領域 | 支援内容の例 | 成果物の例 |
|---|---|---|
| 事業の整理 | 顧客・競合・収益構造・経営課題の分析 | 事業概要、強みと課題の整理 |
| 投資の検討 | 投資効果、導入条件、実行体制の整理 | 投資計画、工程表、効果試算 |
| 数値計画 | 売上・利益・資金繰り・返済計画の作成支援 | 中期計画、月次資金繰り、下振れ試算 |
| 情報の整理 | 経営者の説明と提出資料の整合確認 | 金融機関との協議資料 |
| 融資後の管理 | KPI、予算実績、改善策の継続確認 | 月次報告、改善計画、会議記録 |
会社の説明を代わりにきれいに作るだけでなく、経営者自身が計画を理解し、実績との差を判断できる状態にすることが重要です。
一方で、契約・権利関係は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士など、専門領域に応じて連携することが適切です。経営支援を依頼する場合も、金融機関による融資判断とは役割が異なります。
「認定事業性融資推進支援機関」との違い
事業性融資推進法には、事業者と金融機関を支援する「認定事業性融資推進支援機関」の認定制度が設けられています。法律は、事業・財務の分析、指標や計画に関する助言、継続的な報告に基づく支援等の業務を定めています。
この法定の認定と、中小企業診断士などの資格は別です。また、一般に「認定支援機関」と呼ばれる経営革新等支援機関の認定とも別の制度です。
依頼先が中小企業診断士であることや、他制度の認定を受けていることだけで、認定事業性融資推進支援機関に該当するわけではありません。法定の認定機関としての支援を受ける場合は、その認定の有無と対応範囲を確認します。〔出典:2、第232条以下〕
21.どの銀行で相談できる?2026年の公表動向
制度開始までの主な経緯
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2024年6月7日 | 事業性融資の推進等に関する法律が成立 |
| 2024年6月14日 | 同法公布 |
| 2025年7月2日 | 施行令等や評価・引当に関する考え方を公表 |
| 2026年3月11日 | 信託契約等の書式例を公表。5月にも更新 |
| 2026年5月18日 | 信頼関係に基づく事業性融資の基本的な考え方を公表 |
| 2026年5月25日 | 企業価値担保権制度が開始 |
取扱開始を公表している金融機関の例
2026年9月5日までに確認できた公表例は、次のとおりです。すべての取扱金融機関を網羅した一覧ではありません。
| 金融機関 | 公表日 | 公表内容 |
|---|---|---|
| 山口銀行・もみじ銀行・北九州銀行 | 2026年5月25日 | グループ3行が同日から取扱開始。取引のある株式会社・持分会社を対象に、融資・信託業務を取り扱うと公表 |
| 三井住友銀行 | 2026年7月28日 | 企業価値担保権を活用した融資商品の取扱開始を公表。営業担当部署と本部専門部署が連携する体制を説明 |
この表は取扱開始の公表例です。個別企業への実行額・金利・審査結果を示す融資事例集ではありません。公表日と、個々の借り手への融資実行日も区別します。〔出典:18・19〕
免許等の一覧と、商品の取扱状況は分けて確認する
金融庁は、企業価値担保権信託会社等について、免許・許可・登録等を受けている事業者の一覧を公表しています。
ただし、一覧への掲載だけから、自社の所在地・業種・規模に対して、直ちに融資が可能と判断することはできません。相談時には、対象となる企業、融資の窓口、信託業務の体制、必要な資料を確認します。〔出典:20〕
初回相談で伝える内容
「企業価値担保権を使いたい」という制度名だけで相談するより、次の内容をセットにすると、金融機関が検討すべき点を把握しやすくなります。
- 何の投資・資金需要に対応したいか。
- 必要額と、資金が必要になる時期。
- 既存借入と担保・保証の状況。
- 返済原資を生む事業の内容。
- 保証整理、返済期間、継続支援など、重視する条件。
制度名に固執せず、同じ目的を通常の事業性融資や別の資金調達方法でも達成できるか、比較して相談することが有用です。
22.よくある質問
Q1.事業性担保融資は国からお金を借りる制度ですか?
いいえ。企業価値担保権という法律上の担保制度を活用して、金融機関等から融資を受ける仕組みです。国が全国共通の商品条件で直接融資する制度ではありません。
Q2.個人事業主は利用できますか?
個人事業主のままでは、企業価値担保権の設定主体にはなれません。ただし、事業性を評価した通常の融資は別途検討できます。制度利用のためだけに法人化するかは、税務や運営負担も含めて判断する必要があります。
Q3.不動産を持っている会社は対象外ですか?
いいえ。不動産を持たない会社に限定した制度ではありません。不動産を保有していても、事業全体の資金需要や既存担保との関係に応じて検討できます。
Q4.赤字・債務超過でも必ず借りられますか?
必ず借りられるわけではありません。制度上の対象となることと、融資審査を通過することは別です。将来収益だけでなく、収益化まで資金を維持できるかも審査上の論点になります。
Q5.企業価値評価書の作成は必須ですか?
金融庁のFAQは、融資時の担保価値算定は不要と整理しています。ただし、事業内容や返済可能性の評価は必要です。特定の金融機関・案件で求められる資料は個別に確認します。〔出典:4〕
Q6.企業価値が高ければ、その金額まで借りられますか?
いいえ。企業価値の試算と融資可能額は同じではありません。必要資金、返済能力、リスク、既存借入などを踏まえて決まります。
Q7.経営者保証は完全になくなりますか?
対象債権について個人保証等の権利行使を制限する仕組みがありますが、法令上の例外や対象外の借入があります。会社全体の保証状況を確認する必要があります。〔出典:2・7・8〕
Q8.一つの銀行からしか借りられませんか?
複数の貸し手が同順位などで関与する構成も可能です。ただし、借入・返済条件変更・追加融資などの意思決定方法を整理する必要があります。〔出典:4〕
Q9.信用保証付き融資が残っていても使えますか?
併用できる場合があります。保証付き債権を担保対象から除外するなど、保証制度と法第12条に合わせた対応を、金融機関・保証協会と調整します。〔出典:8〕
Q10.担保を設定すると在庫販売や設備の使用ができなくなりますか?
通常の事業活動は続けられます。一方で、通常の範囲を超える重要な財産処分等には同意が必要です。契約上の報告・同意事項も確認します。〔出典:2、第20条〕
Q11.途中で別の銀行に借り換えられますか?
法律には、借り手が元本の確定を請求し、確定後に特定被担保債権をすべて消滅させることで担保権を消滅させる仕組みがあります。債務者からの元本確定請求は、請求から1週間の経過によって確定する扱いです。
実際の借換えでは、元利金の精算、手数料、通知、担保抹消、新たな貸し手の審査等が必要です。「いつでも無条件・無料で借換えできる」という意味ではありません。〔出典:2、第28・30条〕
Q12.会社を売却したり、M&Aを実施したりできますか?
可能性はありますが、事業譲渡、合併、会社分割、株式の譲渡では確認すべき事項が異なります。事業譲渡等への同意、債務の承継、担保順位、契約上の株主変更条項などを検討します。〔出典:2・10〕
Q13.銀行が会社を自由に売却できる制度ですか?
いいえ。企業価値担保権の実行手続には裁判所が関与し、管財人による管理や、事業譲渡の許可等の手続があります。ただし、実行開始後に従来の経営者の権限が維持されるとは限りません。〔出典:2・15〕
Q14.補助金の採択と同じように、審査項目を満たせばよいですか?
融資では、資金を返済できるかという点が中心になります。制度への形式的な適合だけでなく、借入後の収益・資金繰りと継続的な情報共有を含めて判断されます。
Q15.どの企業も積極的に利用した方がよいですか?
一律にはいえません。通常の無担保融資で十分な条件が得られる場合、借入が少額の場合、短期で大きな事業再編を予定している場合などは、負担と効果を比較する必要があります。
23.契約前に確認したい15項目
最後に、金融機関との協議に使える確認項目を整理します。
- 利用する理由:通常の融資と比べ、どの資金需要・経営課題を解決できるか。
- 対象債権:今回の融資以外に、既存・将来のどの債権が含まれるか。
- 極度額:設定の有無と金額。融資枠との違いを理解しているか。
- 借入条件:金額、金利、期間、据置、最終返済の負担は適切か。
- 総費用:信託報酬、登記、契約、借換え等の費用を把握しているか。
- 既存担保:他行の担保や重複担保について必要な調整ができているか。
- 個人保証:解除する保証、残る保証、例外としての保証条件は何か。
- 信用保証:協会への相談と、対象債権からの除外等が契約に反映されているか。
- 情報提供:資料の種類、頻度、期限を自社で守れるか。
- 重要事項の同意:資産売却、追加借入、事業再編の同意・報告条件は何か。
- 抵触時の対応:コベナンツ違反時の協議・是正と返済請求の条件は何か。
- 追加資金:想定外の資金不足時に、誰とどのように相談するか。
- 借換え・終了:元本確定、精算、抹消、費用の手続はどうなるか。
- 従業員・取引先:必要な情報共有と、主要契約の承継条件を確認したか。
- 返済困難時:実行手続での経営権限・事業譲渡等の影響を理解したか。
書面上の条件と、営業担当者の口頭説明が一致していることも確認します。長期に関わる取引のため、担当者の異動があっても共有できる形で、合意内容と計画の前提を残しておくことが有用です。
24.事業の将来性を、説明できる資金計画にする
事業性担保融資を検討する際の出発点は、自社が必要とする資金と、その返済原資を明確にすることです。
そのうえで、企業価値担保権を活用することで得られる資金調達上の効果と、会社全体に担保を設定する影響、契約・情報共有の負担を比較します。
まずは事業概要、足元の業績、借入・担保・保証の一覧、必要資金、将来の資金繰りをそろえ、取引金融機関に相談してみてください。成長投資や事業承継を進めるために、自社に合う調達方法を選ぶことが大切です。
出典・参考資料
制度の説明は、成立・施行を確認できる法令資料と、施行に向けて更新された金融庁等の実務資料を照合しています。契約書式は参考例であり、個別契約の条件を全国一律に定めるものではありません。
[1] 金融庁:金融仲介機能の発揮/事業性融資の推進(企業価値担保権等)
2026年7月27日更新。
[2] 衆議院:事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号・公布時条文)
2024年6月14日公布。
[3] 金融庁:企業価値担保権・制度の概要
制度施行日:2026年5月25日。
[4] 金融庁:企業価値担保権に関するFAQ
2026年9月5日確認。
[5] 金融庁:事業者と金融機関の信頼関係に基づく事業性融資に関する基本的な考え方(本文)
2026年5月18日。
[6] 金融庁:事業性融資の推進等に関する法律等ガイドライン
2026年1月。
[7] 金融庁:事業性融資の推進等に関する法律第12条第1項に規定する主務省令で定める契約等を定める命令
2025年7月2日公表、2026年5月25日施行。
[8] 金融庁・中小企業庁:企業価値担保権制度と信用保証制度の利用に関する留意事項
2026年5月。
[9] 金融庁:企業価値担保権信託契約等の書式例・公表ページ
2026年3月11日公表、5月22日更新。
[10] 金融庁:企業価値担保権信託契約等の書式例に関する勉強会・議事概要及び書式例
2026年5月更新版。
[11] 金融庁:法定説明事項の顧客交付書面例
2026年9月5日確認。
[12] 金融庁:企業価値担保権制度において作成される契約書の印紙税法上の取扱いについて(国税庁確認済み)
2026年5月18日公表。
[13] 法務局:企業価値担保権の登記に係る申請の方法、申請書様式について
2026年5月21日更新。
[14] 金融庁:事業性融資の推進等に関する法律施行令
2025年7月2日公表、2026年5月25日施行。
[15] 厚生労働省・金融庁:事業譲渡等指針の改正リーフレット(働く方々へ)
2026年1月作成、5月25日適用。
[16] 金融庁:企業価値担保権付き融資の評価や引当の方法等に係る基本的な考え方
2025年7月2日。
[17] 全国銀行協会:企業価値担保権の活用に向けた報告書(2024年度)
2025年3月27日。
[18] 山口フィナンシャルグループ:事業性融資推進法の施行に伴う企業価値担保権の取扱開始について
2026年5月25日。
[19] 三井住友銀行:企業価値担保権を活用した融資商品の取扱い開始について
2026年7月28日。
[20] 金融庁:免許・許可・登録等を受けている事業者一覧
2026年9月5日確認。
[21] 金融庁:信託会社等に関する総合的な監督指針・第13章 企業価値担保権信託会社
2026年9月5日確認。
[22] 事業再構築補助金事務局:財産処分
2026年9月5日確認。補助対象財産の処分制限に関する参考資料。
[23] 金融庁:企業価値担保権の制度検討の経緯
法律成立日:2024年6月7日。